2011-07-24

商店街放浪記46 大阪港吟行(2) 小池康生

商店街放浪記46
大阪港吟行(2)

小池康生

大阪市港区海岸通り―――、こういう住所のビルで句会を開いたのだ。
吟行の案内人は、海岸通りに事務所を構える赤レンガさん。
赤煉瓦の建物と大阪港を愛してやまない人だから、この町の鼠穴まで熟知している。なにやら、レアな吟行となりそうな予感。

中華料理「泰県」を出ると、天保山の渡しに向かう。
以前も書いたが、この船は橋の代わりなので無料。道路扱いなのだ。
まさに河口。川といえば川。海といえば海。渡船場の周囲の防波堤に貝類が付着し、あぁ、海に来ているなぁと感じる。

埠頭より、渡し場の方に海を感じるのはわたしだけだろうか。
待合室の上は、渡船に従事する人の休憩所のようだ。一階には、洗濯機などがあり、なんとも生活感がある。

11人の吟行参加者が、船に乗り込む。
すぐさま、写真大会。早く撮らないと、向こう岸についてしまう。
手帳を取り出し、句なのか、メモなのか、記しだす。

あとの句会で分かるが、この渡船は相当に句に詠まれていた。
大阪港でも抜群の句材だ。

向こう岸に着くと、待合室に溜まる。
すぐさま、同じ船に乗って戻る予定だ。
少しはこちら岸も歩きたいところだが、時間がない。
海岸通り側でびっしりスケジュールが決まっている。

同じ船の出発を待ち、待合室で句材で探していると、船が出る様子。
慌てて、皆に乗船を促す。
乗りそびれると、次は20分先になる。ダッシュ。

降りたばかりの船に駆け込む。
地元の生活者が、自転車ごと乗り込んでくる。

外国人がスポーツタイプの自転車を押して乗り込んでくる。
なんとも絵になる。この辺り、USJがあるので、そこで働く外国人がこの辺りに住んでいるので、チラホラこういう光景に出くわす。
彼らは、USJのアトラクションに出演する人たちなので、男女ともにスタイルがいいし、ファッション感覚も尖っていてスマート。

天保山に戻ると、渡船場の目の鼻の先の山に登る。
標高4.53メートル。453メートルではない。4.53メートル。
5メートルにも満たない日本一低い山。
天保二年、1831年、辺りの川を浚い、その土砂を積み上げてできた築矢山である。

長野県は野辺山から参加している栗山辺は、今回の吟行で天保山がもっとも印象的だったらしい。
社長の座を捨て、野辺山のロッジでひとり隠遁生活をしている人が、そういうのが面白い。

天保山は築山時に桜を植え、文人墨客が花見を楽しむ場所。
<四時ともに遊興の人絶ゆることなく>と記されているほど大阪随一の名所、冬は雪見、夏は遊び船、和歌俳諧の集まりでにぎわったところ、現世の煩わしさを捨てた辺さんが、ここを気にいったのが、わたしには面白いのだ。

当日、散会間際、赤レンガさんが、喫茶店に飛び込んで<天保山登頂証明書>なるものを貰ってくれ、皆に配った。

そこには、<本日、あなたは数ある名山の中より日本一低い山「天保山」を選び以下のルートで登頂されましたので、その証を贈ります>とある。
片側には、本朝名所「大坂天保山」初代歌川広重の絵がカラーで刷られている。

辺さんは、野辺山のロッジのストーブの上にこれを貼り、近所の人に見せびらかしているらしい。
「あんた年間、何十と山登っているけど、ここはまだやろ?」
と長野県人に天保山を自慢しているのだ。

亀田憲一こと、カメケンによるとこの天保山で詠んだ彌榮浩樹の句はわたしを描いたものらしい。


   標高4.53メートル
 春嶺にひとり頭(つむり)のとがりをり  浩樹

本当にわたしかどうか知らないが、髪型は、まぁ、そんなだが・・・。

天保山を下りて、大阪港の尖端に向かう。
海遊館の前に展ける海だ。
ここで自由時間、海を詠むための時間を用意する。

閉館したサントリーミュージアムの海側の階段で、それぞれが句帳を膝に置き、海と向き合う。
安藤忠雄建築の夕日を見るための階段に腰掛けて、なんだか皆深刻なのである。

その顔つきを見ながら、つくづく、大阪だなぁと思う。
これが、鎌倉の海や、瀬戸内の海なら、表情は違っていたはずだ。

京都の岡野美千代は
「大阪はガサガサしてる感じがしてたけど、水あり、緑あり、大阪の印象が変わった」
と言ってくれたけど、皆は、海にいて海のそばにいる表情ではなかった。
やっぱり、海はきれいでなきゃなぁ。

この海で、カメケンはこんな句を作った。

 波ごとに舳先頷く春の昼  憲一

大阪港のコンテナの句も多かったが、なかなか難しい。
現代の大阪港は、工場やコンテナに存在感があるのだが、この現実がなかなか俳句で作品化しがたい。

このあとも海の見られる場所をまわり、そのあと、赤レンガさんに連れられ、メンバーの誰もが知らない大阪港に案内されることになる。

 渡つてはすぐ戻る舟春ショール  和人

                                                          (続く)

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