〔10句競作を読む〕
静かな高揚 藤枝一実
うきくさの高きところに星盛る 宮本佳世乃
水面にうつる星々だろうか。
「高きところに」と置かれたことによって却って浮草の「低きところ」を思ってしまう。水面下の部分も含めた立体的な浮草の中の「高きところ」と星盛る世界の邂逅。微かな高揚感ときらめき。とても静かな描写が多彩な空間知覚を刺激する。
今回の宮本佳世乃の『行つたきり』には掲句の他にも微妙なテンションの高さを感じさせる表現が多数見受けられる。
箱庭を真白き舟のもり上がる 同
あたらしき蜘蛛の囲に水つもりけり 同
鳥飛ぶ仕組み水引草の上向きに 同
初秋やゆふかぜ朱鷺に長くふき 同
一句目「もり上がる」、二句目「つもりけり」、三句目「上向きに」、四句目「長くふき」。そういった措辞を用いながらも句が高ぶり過ぎないよう丁寧に言葉がコントロールされてあり、作品全体としてはとても静かで透明感のある美しい世界が描き出されている。
月の出を待つ間に森の闌けにけり 同
星は「盛り」、森は「闌ける」。
このような濃やかな言葉へのこだわりがさりげなさを装ってふっと置かれることに驚く。
月が出るきざしがあるうす闇の中、静かに闌ける森に自分ものまれてしまいそうな感覚は甘美であり空恐ろしい。
そしてその感覚はこの句群全体に共通して受ける感覚と似ている。
言葉がいままさに闌けり始めている現場に居合わせたような、そんな心地がする作品集だ。
≫週刊俳句「10句競作」第2回 結果発表
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2011-10-02
〔10句競作を読む〕静かな高揚 藤枝一実
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