2011-10-09

〔10句競作を読む〕iPhone、だけ? 村越敦

〔10句競作を読む〕
iPhone、だけ? 村越 敦


マッキントッシュでおなじみのアップル社の製品群がなぜ素晴らしいかということを考えてみるに、ひとつはものすごく複雑なプロセスをいとも簡単にやってしまうように“見せる”ところにあるのではないかと思う。

たとえばアップル社のライバル、グーグル社のスマートフォン向けOS“Android”について、たしかにその機能は多岐にわたり、素晴らしい。

しかしその動作について検討してみると、もちろんこちらの期待に100%応えてくれるにはくれるのだが、なんとなく裏で為されているであろう複雑なプロセスがうっすらと浮かび上がってきてしまう、ような気がする。操作をするたびに、機械から「ほれ、どっこいしょ」という効果音が聞こえてくる感じがするのである。

一方アップルの製品はそういうある種の“ネタバレ”的な綻びを一切感じさせない。

どこまでもスムーズで、人間臭い動きをさも何事もなかったかのようにいとも簡単に実現する。レスポンスも極めて自然である。アップル製品愛好者の方ならよくお分かり頂けるかと思うが、なんてったってスクロールが勢い余ってしまった時の感じはたまらない。

こういうことができるのは、そう、iPhoneだけ…かと思いきや、難しいことをこなしながらもそれをまるでさらりとやってのけたように見せ、しかも読み手をわくわくさせてくれる、そんなアップル製品のような俳句があった。


鳥飛ぶ仕組み水引草の上向きに  宮本佳世乃

おもわず「とりとぶしくみ…」と音読してしまいたくなる独特な響き。

「鳥」「飛ぶ」「仕組み」「水引草」「上向き」と多くの要素が含まれていながら、不思議と煩わしさを感じさせない。むしろなんともいえない説得力を滲ませているのは内容の把握以前の、視覚的な効果や韻律に拠る部分が大きいのかもしれない。

蓮の葉と空の埋もれて午後来たる  同

「蓮の葉に空の埋もれて」であれば腑に落ちるのだが、「蓮の葉」と「空」はお互い独立の事象として一句の中で主張し合うことをやめない。読み手はそのかすかな違和感におののきつつ読み進めるも、「午後来たる」で、ああ午後が来たのかと由来不明な安堵感に包まれる。不思議な着地がそこにある。

初秋やゆふかぜ朱鷺に長くふき  同

中七は言葉が詰まっている印象を与えやや窮屈であるが、「長くふき」で一気に解放される。時間の長さ、朱鷺そのものの長さ、風の射程の長さなどいろんな長さに思いを馳せていると、もう夕風が吹き渡る初秋のなかにいる。


これらの作品について、韻や、それを導く語の選択といったものに拘りを見出すことはこうして改めて腰を据えればさほど難しいことではないが、一読した際は裏で行われている作為めいたものの匂いに気がつくことはない。

心地良さだけが、パン食い競争のメロンパンよろしく眼前にぶらさがっており、読み手はそれに素直に甘んじればよい。それは巧妙に、しかしさりげなく仕組まれた魔法のようでもある。


週刊俳句「10句競作」第2回 結果発表

0 comments: