冬日なし マイマイ
入梅の重さを移す車椅子
しばらくはふたり河鹿を聞き分ける
抑留体験記梅の実が濡れてゐる
羽黒蜻蛉は羽黒蜻蛉に夢中です
延命の管の向こうの夏の雲
百合開くまでタンバリン鳴らさうか
夏蝶の空の真昼へ落ちてゆく
夕焼に染まない雲がありました
水の惑星(ほし)我に極暑のカレーパン
生きるてふ刑期や蝉の声止まず
半月の沈む重さやダチュラ咲く
遠慮なく父のおごりの鰻食ふ
むくげ見たむくげ落ちてゐるのも見た
雨さつと過ぎてかなかな遠く近く
椋鳥の群のぐにゆぐにゆぐにゆ磁力
ジェットコースターの運ぶ心臓秋高し
芋虫をですます調で問ひ質す
秋空はビルの硝子かもしれず
ポケットにきのふのどんぐりが乾く
無駄な抵抗を止めて蟋蟀を聴け
ちやんぽんのもやしのひげの夜長かな
遅番や金木犀の荒(すさ)ぶ街
新聞のペラペラ乾く百舌日和
遺品詰め込む小春日の段ボール
石蕗咲いて岬に鉄の匂ひけり
贈答の箱をまだ出ぬ毛布かな
風に当たらぬ山茶花から咲いた
四階フロアー一周報告冬日なし
風花やカップに混ぜるとろみ剤
地下街の泉に揺らぐクリスマス
オムツ交換三十一床冬銀河
新年を実直さうに来る額
雪嶺や少女のごとく歌はんか
人死ぬる日の水仙のむせかへる
入れ歯洗浄剤シュワシュワ寒明ける
青空や風のミモザの真下まで
白木蓮(はくれん)の約束ならば破られる
エイプリルフールみな上を向く粉薬
春風の類型として電車過ぐ
引き抜くべきスミレと目があつている
ボーロください百六歳の春の日に
花屑を踏んでらいおんバスが来る
行く春の行列サーカスの冥さへ
人待てば藤の名残をつたふ雨
目測を小さく裏切る蛍の灯
洗はれて五月の山の近さかな
夏蜜柑剥く唐突に正義感
初夏の太陽、海は多面体
青嵐剥がれし爪の下に爪
桐の花降るローマ史の伏せしまま
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2011-10-30
2011落選展テキスト マイマイ 冬日なし
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1 comments:
作者は介護関係の仕事に携わっておられる方なのだろうか。
そのような関係を思わせる句がいくつか混じっているようだ。
「雪嶺や少女のごとく歌はんか」
「夏蜜柑剥く唐突に正義感」
などの句は、直接にはそのことと関係はない作なのだろうが、
つい関係づけて読み、句に勝手に陰翳をつけて鑑賞してしまう。
少女のように歌う老女とか、疼くような正義観とか。
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