退屈さうな空 中塚健太
ぶらんこを垂らし退屈さうな空
会話から蒲公英の絮飛んで困る
音ひとつ落としてよりの落椿
万年も生きれば偶に亀鳴けり
菜の花の明るい方へ行く電車
風船を必ず逃がす開会式
路地といふ空の底にて春惜しむ
夏来るペットボトルに水平線
目の湖を青葉の色の溢れけり
初夏の柑橘系の夕日かな
風薫る電車の窓に後頭部
鳥も樹も影失へる梅雨曇り
箱庭におそらく墓は建てぬもの
雨に咲く傘太陽に咲く日傘
泉汲む果実いただくやうに哉
緑蔭に入滅したる影法師
浴衣着て娘つぎつぎ開花せし
無数の目無数の窓に雲の峰
噴水の歓喜に踊る水の玉
透明な抒情ただよふ海月かな
シャワーして輝く魂を洗ひ出し
新涼や夜間飛行の灯またたき
秋の蚊帳海溝の深さと思ふ
いつまでも果てぬ亡者の踊かな
天高く屋上多き大都会
スーツ着ぬ自由背高泡立草
民草の吾にとんぼの止まりけり
人はみな迷ひ子なりぬ秋燈
月の夜の公衆電話ボックスよ
澄む水の割れぬ鏡でありにけり
咲くものに慰め花野どこまでも
末枯の年輪ひとつ刻むころ
冬支度水を平らに均しけり
北塞ぐ其処に暗がりうづくまり
冬銀河ベッド漕ぎだす夢の航
白鳥の尻に火の点く撒餌かな
いかのぼり視線の糸はぴんと張り
天空を荒海として寒波くる
マフラーの渦中に恋の主人公
極点に旗と炬燵のある景色
原つぱの地軸たらむと独楽回る
外套やだらりと不在吊るしある
詫びるにも便箋といふ大雪原
雪解川一山の白濯ぎけり
草原の風の育てる仔馬かな
無為なれば日永のしつぽ追うてをり
掌中の宇宙ざわめく木の芽時
春愁の口内炎のやうに邪魔
春光の戯れ玻璃の縁好む
朝寝して時計はとうに起きてをり
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2011-10-30
2011落選展テキスト 中塚健太 退屈さうな空
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