2011落選展テキスト すずきみのる 佇みて

　佇みて 　すずきみのる
　　　　　　　
はだれ野に放置の色のドラム缶
浅春の水面に迫りくる魚鱗
電気柵沿ひに疾走春の鹿
雛壇をかすかに浮かしゐたる地震
つのかくし桃花に淡き影添ひて
立ち乗りのロープウエイや愛林日
桜満開大きいサイズ専門店
螺旋階段のぼりて桜間近にす
抜き立ちのテイシユーいちまい杉花粉
囀りや生者のほかはみんな死者
理髪燈ひねもす春日巻きとりて
３ＬＤＫ五月の風の道つくる
初夏の街飾り釦を買ひもとめ
新緑下きつねの雨をやりすごす
苔の花うねびかぐやまみみなしの
老鶯や高倉は闇蔵し立つ
椎の花勾欄ににほふ枯山水
新茶の香書架に読まざる記紀神話　
青田より山巓までを風つなぐ
新緑を泡のごとくに条里都市
痩身が玻璃に踊りて熱帯夜
油膜へだてて孑孑の断末魔
ほぐれつつ魚身流るる晩夏光
メスを目に入るるその日も天高し
常夜灯星に紛るる露の夜
纏ひつくものけざやかに紅葉なす
静寂が常闇を生む月鈴子
楽聖のべしみの死面秋の薔薇
秋天に色風船を解き放つ
花野にて黒衣の犬の動と静
秋惜しむ回送の灯の消ゆる時
広々と砂礫の河原富士は雪
円丘を甍が占めて冬の河
雪の原灯してボンネツトバスを夢
荒天の海や冬日のささくれて
冬ざれや飴色樹脂と空蝉と
寒の水揺らさず運び来る女
風邪に寝て草原を行く馬の像
旅のメモ栞に残すイブの夜
マスクしてつぶやき増えてゐたりける
青ペンキ冬のプールに乾きをり
垂れ尾なす雪雲鹹湖触れつ過ぐ
数え日の品川駅に投函す
据えられてよりの発光鏡餅
薄き髭映し出したる初鏡
本持ち込みて長々と初湯かな
犬の勢紐伝ひなる二日かな
太箸が祝ぎて野のもの海のもの
なみのりふねの文字のくっきり宝船
四日はや蒸気の柱宙に融け

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