ペンを回してばかりの午後 福田若之
テンキーの隣にレタスサンド春
詩を書いて崩して塔の霞む日々
恋する猫はガラスのように融けるだろう
暮れかねて悪魔紳士の待つ扉
さくらさくら汚れたエンジンを診ている
蛙に最期の夢をみせつつ実験開始
仕事のない両手に蝶を閉じ込める
大学は並木に風の光る場所
仮入部して昨日今日つばめ来る
充ち足りた音楽と麗らかな土手
ダイナモの翼の廻る野に遊ぶ
蒲公英の絮吹く片思いだった
ゼブラゾーンを越えゆく機影春終わる
こころたとえば葛餅のうすぐもり
貸してくれたツェッペリン聴く蜜柑の花
生きるとは作り出すこと五月の樹
地球をポピーの花で埋メタイ狂ワセタイ
ベランダからいつか逃げ出すための器具
香水ほのかに上映中の青い腕
ほたるびが家出少女のように浮く
くしゃくしゃの空き缶と雨の青桐
暴力のようなでんでん虫が来る
富嶽百景氷イチゴにミルク少し
シンナー匂う夏の地下道魚群の絵
君が来たような気がした扇風機
そよぐ青葉ペンを回してばかりの午後
空蝉の足がよじれたまま残る
夏終わる排水口に絵の具の渦
残暑 頭の中のやどかり死んだ
サービスエリアのトイレ鶏頭一輪挿し
どこからか草の香りがする銀河
秋の雨映画のシカゴしか知らない
とんぼ 駄菓子屋のレーザー銃が鳴る
つちいろのばったの素直さでいたい
百舌さけぶ悲劇は晴れた日に起こる
階段せまくて唐辛子匂う店
外は宵闇チーズドリアに待たされる
露の夜の壁画にジプシーの踊り
塗装屋のつなぎに飛沫冬が来る
枯れ芝に重機まもなく八王子
ストーブをやや近づけて描く日暮れ
火薬庫に火のない渇き蝶凍る
寄せ鍋のときは部室にくる彼ら
ビバップとポインセチアの統べる街
咳・微熱・酢豚がすこしグロテスク
カレクサカレクサマンガノ血シブキハ黒イ
人肌を冷えつつ涙つたいゆく
マフラーして僕ら発光する渋谷
春を待つかつてのいくつもの春を
冬の月浮くあのへんへ帰ろうか
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1 comments:
「詩を書いて崩して塔の霞む日々」
「秋の雨映画のシカゴしか知らない」
「塔霞む」とは、ずいぶん古風な季語を使っておられるなと
思いつつ、1句は昭和モダン風の作に仕上がっているよう。
「シカゴ」は結構たくさんの映画の舞台になっているようですね。
現地を知らなくても、映画という架空の世界の中でのシカゴの
街並みは、作者の中で独特の色合いを持った街として存在して
いるのでしょうか。「秋の雨」が、モノクロ映画風な陰翳を作に
もたらすようです。
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