〔超新撰21を読む〕
風を蹴るおばあさん
杉山久子の一句……野口 裕
春風を蹴る三人のおばあさん 杉山久子
一読、西東三鬼の「緑陰に三人の老婆わらへりき」を思い起こすが、もちろん句の肌触りはまるで違う。一体に、この作者は根の深いところまで向日性を秘めている。どの句も、明るい印象を残す。
跳箱の内のくらがり桃の花
蛍火や体内の水あふれさう
なきがらをかこむ老人天の川
滝となりまつさかさまをよろこべり
闇を詠んでも、死を詠んでも、どこかに安らぎを感じる句柄は、人柄の反映であるかのようにも見える。句を作るというよりも、句が出来てしまうようなところがある。勢い余って、対象物に心情を託した句が四句目だろう。寄物陳思は短詩の伝統的な方法論だが、素直に喜びを表現する物体の存在は珍しい。
作者は未だ老年には遠いが、理想とする老境が風を蹴ってしまうおばあさんではなかろうか。そんな老境に達したときの句も読みたくなる。が、よく考えると私の方が作者よりも年上だからそれは難しい。せいぜい風を蹴るおばあさんを見習い、少しでも見届けることにしよう。
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2011-10-30
〔超新撰21を読む〕杉山久子の一句 野口裕
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