2011-11-20

林田紀音夫全句集拾読190 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
190



野口 裕



寝過ごして積木の惨につきあたる
昭和五十二年、未発表句。「積木くずし」のことが頭をよぎったが、これは昭和五十七年。小さな子が積み上げた積み木を朝遅く目覚めたときにうっかり崩してしまったのだろう。この時期、紀音夫の娘さんは中学生のはずなので、回想の句か。

作家の自意識では、「惨」が不安定な生活の象徴だろう。林田紀音夫という名で読む読者もそう受け取る場合があるだろうが、句そのものに集中して読むと、「惨」は誇張による諧謔をねらったものと読めてくる。


さまざまに人を流して夕茜

まざまざと老母に粥の冷えて夜


ばさばさと棕櫚いちにちは遠く過ぎ


さまざまな灯の呟きの遠い川


人びとの念珠より風ひとしきり


まばたきのいよいよ昏れて死びと花


昭和五十二年、未発表句。頁をまたがって何句かおきに重畳語を使った句が現れる。昭和五十二年、「海程」、「花曜」発表句には「天の紺しみじみ昏れる死びと花」がある。句の意味とは別に、音を重ねて作ることへの実験的な意識があったことは間違いない。


星の粒あつめて竹の秀を飾る

昭和五十二年、未発表句。「きらきら星」のメロディーでも聞こえてきそう。何句か前にコスモスの句があるので、七夕とは考えにくいが、一句を取り上げた場合はそういう風に読まれることだろう。

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