〔週俳12月の俳句を読む〕
ふたつの白
奥坂まや
あざやかな平手打ちなり冬夕焼 渋川京子
一物句とも取り合わせとも解釈できるが、一物として鑑賞したい。夕焼の色だけに着目すれば、夏の暑い盛りのほうが激しい。まさに燃えるような濃い赤が、西空いっぱいにうねる。
だが冬の夕焼は、すさまじい寒さを伴って現れる。晴れ渡った昼間は結構暖かかったのが、日が落ちかかると共に、急激に温度が下がる。曇天や雨の一日とは全く異なる温度差と、やや濁って沼のようにどんよりとした赤色が、平手打ちとなって襲いかかり、心に打撲傷を遺す。
空腹や冬空に舞ふ葉一枚 小野あらた
よく晴れた冬の空に、一枚の葉っぱがひらひらと落ちてゆく。葉の動きを眼で追っていると、ぽっかりと開いた空間がしみじみと感じられる。
あたかも、アシモフのSF『ミクロの決死圏』の医療チームのように縮小された自分が、空っぽの胃袋の内側に立ち、かろうじて漂っている食べ物の残片を仰いでいるかのようだ。
飯よそふ肘かろやかや小六月 津久井健之
この作品を読むと、人間の肘がもっとも軽やかに見えるのは、テニスの球を打つときでも、ランニングの際でもなく、炊きたての御飯をしゃもじで湯気とともによそう瞬間にちがいないと思わせられる。
腕まくりした白い肘がサッとうごいて、白い御飯が茶碗にポンと盛られる。小春日和の穏やかな明るさが、ふたつの白をいやが上にも輝かせる。
●
1 comments:
「あざやかな平手打ちなり冬夕焼」は私の句ではありませんよ。
コメントを投稿