2012-01-22

〔週俳12月の俳句を読む〕沈んだあとは 田中英花

〔週俳12月の俳句を読む〕
沈んだあとは

田中英花


電飾寒し人を待つ人ばかり  原 雅子

それぞれの人が、それぞれ約束の人を待っている。
イルミネーションの輝く街にも、人を待つ人たちが立ち並んでいる景にも、寒いという思いがする。
それでも、ひとりふたりと待ち人と出会えた人たちが並んで歩いてゆく姿に、どこか安堵にも似た思いを抱くのも事実である。



鍵盤のぽつぽつ沈む冬の星  高勢祥子

「ぽつぽつ沈む」の表現と感性に惹かれる。
今は使う機会の少なくなっているピアノかも知れない。
我が家のピアノも使う人がいなくて、古くなっている。
そんなピアノの鍵盤を、ひくというより押してみると、本当に沈むような感覚になる。沈んだあとは押し戻されるようにもとに戻る。次の音もしかりである。
帰りの遅い人を待ちながら、そんな風に鍵盤を押しているのかも知れない。窓の外では冬の星が輝いている。



生きのびてセーターやはり黒選ぶ  渋川京子

作者の人生に、今生きているのが不思議なぐらいの何かあったのだろうか。
それとも、長く生きてきたものだなあ・・との感慨なのだろうか。
いずれにしても、いろんなことがあっても、「やはり私は私、セーターもやはり黒を選んでしまう。黒が最も自分らしいと思うもの」っていう声が聞こえてきそうである。



年の夜も川を渡って帰るかな  阪西敦子

この句の「も」からは、その生活ぶりが見え、その景色が見え、作者その人が見えてきて、その心情を思う。
いろんなものを抱えて生きてはいるが、なんとか今年も無事に終わることが出来たという「年の夜」だと思う。
そんな思いを胸に、今年最後のいつもの川を渡って、我が家へと向かう作者なのであろうか。



何回も雪見障子の落ちてくる  岡野泰輔

限られた範囲での景色を楽しんでいると、コトンと雪見障子の部分が落ちてきた。さっきからそんなことが何度か続いているのだろう。
そんな雪見障子の内側では、「申し訳ないですね。何度も落ちて」と、誰かが誰かに謝っているかも知れない。



不忍池と地続き冬眠す  太田うさぎ

「不忍池」の固有名詞がとても魅力的な冬眠を演出してるような気がして、冬眠の主に思いをはせる。


第241号 2011年12月4日
原 雅子 或る日 10句 ≫読む
高勢祥子 水音 10句 ≫読む

第242号 2011年12月11日
渋川京子 黒セーター 7句 ≫読む
山田露結 中古の夢 7句 ≫読む
阪西敦子 年の夜 7句 ≫読む
小野あらた 粗目 7句 ≫読む

岡野泰輔 行く年 7句 ≫読む
太田うさぎ 歌謡曲 7句 ≫読む
津久井健之 ボウル 7句 ≫読む

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