〔超新撰21を読む〕
一瞬のうちに人体を
上田信治の一句……野口 裕
ところてん池は雨降る前の色 上田信治
すべての事柄は、何かが起こる前兆としてあり、起こりえる何かはいつ起こるかわからない。どろんとした池の色は、何もかも溶かし込んでいるようであり、すべてをやんわりと拒絶しているようでもある。
ペアノ曲線というものがある。画像検索をかければ、いろいろな例がたちどころに出てくる。要するに、空間上のすべての点を舐め尽くす曲線と思えばいいわけで、形状は一見ところてんに似ていなくもない。
線状の物が空間を埋め尽くす不思議さ。それはあくまで近似されたものであるが、有限者が、無限を頭の中で考え得ることの、いわく言いがたい奇妙さを当事者に感じさせる。ちょっと前なら、それを神の存在証明と見なせたろうが、そんなことはどうでもいいわの時代ともなると、奇妙なことは奇妙なままで頭の中に放り込まれたままになっている。たまにそれを引っ張り出すと、
押入を開けて布団の明るしよ
どこか、あっけらかんとした風情を漂わせる。
おりにふれて、人はそれを考えずにはいられない。いや、考えるというのは大げさすぎるだろう。それは一瞬のうちに、人体を、馬耳東風のように、通り過ぎるものだからだ。
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2012-01-29
〔超新撰21を読む〕上田信治の一句 野口 裕
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