【不定期連載】 牛の歳時記 第5回 冱つる(凍つ) 鈴木牛後 凍きびし牛の飼葉に篠まじる 下村槐太
冱つる 寒気にあって凝結することで、凍ると同じ意である。また、頬凍つる・風凍つる・月凍つる・鐘凍つるなど比喩的にも用いる。(講談社『日本大歳時記』)掲句、牛のエサである草に笹が混じっているというだけの景。干し草は温かそうなイメージがあるが(ハイジがベッドに使っていたっけ)、その中にある笹のシャープな形と、干された白さが、凍てついた身体を刺すかのように思われるのだろう。 今は大寒。一年でもっとも寒い季節を過ごしている。ちなみに、今日(1月27日)の最高気温はマイナス7.9度。最低気温は、マイナス25.2度であった。 最近の歳時記には「真冬日」という季語が載っている。真冬日とは、一日の最高気温が零下の日のこと。真冬日の南限は北関東あたりだろうか? そのような地域では、真冬日になったというだけで一句作れてしまうかもしれない。しかし、当地では真冬日は当たり前で、たまに真冬日にならない日があればそれがトピックスになるくらいである。 そんな日々、常に「凍結」と隣り合わせで生活している。住宅はある程度断熱もなされているのでそれほど心配はないのだが、それ以外のところにはかなり気を使う。 凍結するものはいろいろあるが、今日凍らせてしまったものは、水源地のポンプ。我が家はの水源は湧き水なのだが、その水源は住宅や牛舎より下方にあるので、そこからポンプで揚げている。そのポンプが凍結して動かなくなってしまった。普段、凍結防止のために雪をたっぷりかけて埋めているのだが(雪が断熱材となる)、いつの間にか融けてしまっていたのだ。 凍ってしまったポンプは、ジェットヒーター(強力なストーブのようなもの)を持っていって融かすのだが、融けるまでの間は水が使えず、仕事で冷え切った指先を湯で温めることもできず、惨めなものだ。しばらくして、水が出るようになったときの安堵感は何事にも代えられないくらいである。 牛の糞尿を舎外に搬出する機械であるバーンクリーナーもしばしば凍結する。牛の糞尿が凍ることで鉄板とくっついてしまい、動かなくなるのだ。仕方なく、ほぼ毎朝ツルハシでたたき割ってから動かしている。牛の糞も、凍るとまるで石のように堅くなって、破片がからころと音を立てて転がってゆく。 そんな中でも、牛舎の中はある程度の気温に保たれている。通常は氷点下になることはなく、今朝のような寒い日でも零下3度くらいはある。暖房しているわけではなく、牛の体温のためだ。牛の平熱は、38.5度くらいと人間よりずっと高い。容積100リットルとも言われる胃の中で、微生物が餌を分解する発酵熱がその体温の源泉だ。しかも牛はかなり密度高く飼われているということもある。 うんと寒い日に、牛に触ったり寄りかかったりしていると、牛からじわーっと温かさが伝わってくる。牛も特に嫌がるわけではなく、黙って反芻しているだけだ。そんなときは、身体の大きさとも相俟って、牛の包容力というものを実感する。包容力とは温かさのことなんだな、と。人間もそうありたいものだ。 牛の糞父の拳のごとく凍つ 牛後 ●
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