2012-02-19

〔週俳1月の俳句を読む〕清水良郎

〔週俳1月の俳句を読む〕
大リーグボール養成ギプス

清水良郎


3年前から短歌を始めた。「季語」と「切れ」、「字余り」などをさほど考えずに済むこと、31文字も使えることが、こんなに自由だとは思わなかった。逆に言えば、俳句づくりで培ってきた言葉の厳選力、定型をめざす工夫が短歌制作に役立っているということだ。

今の短歌には言葉の無駄遣いが多く、定型厳守の意識が薄い気がする。特に「中ぶくれ」の8文字は不恰好なことが多いが、歌人はわりと鈍感である。定型におさめるために推敲を重ねた歌はやはり輝きが違う。私にとっては「俳句」は「短歌」にための「大リーグボール養成ギプス」になっているわけだ。



工場の煙まつすぐクリスマス  村田 篠

私は昭和31年、大阪生野区の長屋で生まれた。まわりに工場の煙突も多く、家々には薪で焚く風呂の煙突も立っていた。ほのぼのとした時代でもあり、「煙」はあたたかみを感じさせてくれる存在であった。この句の煙突はおおきなロウソクであり、ささやかなクリスマスを思い出させてくれる。機械油の染みた紙に包まれたお菓子に想う、私の「三丁目の夕日」。



胸ふかく呑み込むたばこ初昔  西原天気

煙草の葉自体は猛毒である。この句は、煙を吸い込むのではなく、煙草自体を深々と呑み込んでいる。つまりは自死。うすれゆく意識のなかで、今がどんどん「昔」になってゆく。味わいのある句。



寅さんの背広は同じお元日  河野けいこ

その姿は今、銅像となって、柴叉駅前にある。先日(2月14日)、「おばちゃん」役を演じた三崎千恵子さんも亡くなった。お正月の定番であった映画も昔となってしまった。寅さんシリーズの最後は渥美清氏も体調を崩し、あのトランクも発泡スチロールの布貼りになったという。この句はいつまでも動かない銅像のことを詠んでいるのかもしれない。



しんしんとハリマオ忌まで海の旅 佐山哲郎

せっかくの「ハリマオ忌」なんだから、鳳作の本歌どりではなく、真正面から詠んでほしかった。受け狙いだけの「ハリマオ忌」なら私は許さない。ちなみに「ハリマオ」のモデルは、昭和初期にマレー半島へ移住し、さまざまな活動をした谷豊氏。忌日は1942年3月17日。享年32歳。「ハリマオ」は単なるヒーローではなく、重いものを引きずっている。



とりあへず拳骨で割る初氷  山崎志夏生

とりあえず、拳骨で氷を割っただけの事だろう。それだけのほうがすがすがしい。大阪の漫才なら「なんで氷割らんとあかんのや!」とツッコミが入るところ。俳句というものは、ある面、ボケとツッコミの勝負かもしれない。



人間に表と裏と日向ぼこ  雪我狂流

これは、人の背と腹という意味ではない。セーターをくりんと裏返すように、内臓が表側に露出して日があたっているのだ。思えば、人間は一本の管であり、胃壁や腸壁も「おもて」になるのかもしれない。こう見ると「日向ぼこ」の季語も効いてくる。



竹馬の人追ひかけて来りけり  林 雅樹

これは怖い。用事があるのではなく、ただただ追いかけて来る。意味なく追いかけて来る人は怖いが、竹馬だから恐怖が倍増する。これもボケとツッコミの勝負の句。



ものの影ものをはなれてゆく初日  仲 寒蝉

昔の話だがこの作者と角川賞を最後まで争ったことがある。せっかく私に勝ったのだから、さらなる爆発を期待したい。そうでないと、私が抜き返して俳壇の重鎮になっている、かも。(そんなことはないと思うが)。



ぽっぺんを吹くや片方つけまつげ  上野葉月

「つけまつげ」と「ぽっぺん」はあっているような気がする。歌麿の浮世絵の女もやや横向きだし、片方つけまつげも効いているように思う。



恋文めきて肉筆の賀状かな  望月 周

「肉筆」の字面から感じとれるセクシーさがこの句を支えている。「恋文」というシチュエーションが付き過ぎという気もするがどうだろうか。



去年今年撫でれば歪む犬の顔  岡本飛び地

犬の顔は意外と肉がたるんでいる。パグやブルドッグはもちろんだが、レトリーバーなどもそう。それを撫でてやると、引きつれて目が三白眼みたいになる。新年のワンシーンとしてはなかなかよい。



初空にもつとも澄んで杉・天狗  田中亜美

まっさきに杉作と鞍馬天狗を思い出した。松島トモ子の大きな瞳と天狗の黒装束が「初空」にぴたっとくる。ちんぷんかんぷんの若い人には申し訳ないが、思い出に浸らせてもらった。


第245号 2012年1月1日
生駒大祐 うしなはれ 5句  ≫読む
村田 篠 水鳥 5句  ≫読む
上田信治 ご町内 6句  ≫読む
西原天気 胸ふかく 5句  ≫読む

第246号 2012年1月8日
特集・新年詠2012  ≫読む  ≫読む  ≫読む  ≫読む  ≫読む  ≫読む

第247号 2012年1月15日
谷口智行 初 暦 7句 ≫読む
小林千史  7句 ≫読む

第248号 2012年1月22日
雪我狂流 日向ぼこ 7句 ≫読む
依光陽子 涯 hate 7句 ≫読む
矢口 晃 蝌蚪は雲 7句 ≫読む
山下つばさ ぱみゆぱみゆ 7句 ≫読む
福田若之 既製品たちと歌ううた 7句 ≫読む

第249号 2012年1月29日
望月 周 冬ゆやけ 7句 ≫読む
林 雅樹 紛糾 7句 ≫読む
松本てふこ 遊具 7句 ≫読む
野口る理 留守番 7句 ≫読む


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