2012-04-22

02■hi→作品集(2010.10~2012.3)テキスト

ターン 西丘伊吹 (藍子 選)

対岸の向かうも街や夕凪げる
白桃を剥くやじわりと指の冷え
東京をめくれば土や月今宵
伊勢丹の空ほそながく鳥渡る
寒桜曲がり角なき道なりし
何もなきところにかかる冬の虹
雛人形ちひさき闇を纏ひけり
雛壇の一等うへに届かざる
まださくら咲かぬ小枝と初風と
小魚が揃ってターンして早春 




こどものように 衣衣伊吹 選)

神様と型ぬきをする宵祭
四万六千日女装の人も祈るなり
秋時雨手と足の爪赤く塗る
鶏頭をこどものように抱いてゆく
人工のひかりのまちや都鳥
除夜の湯や幼子のやわらかき瞳
澄んだ名で呼んでください冬の虹
将棋さす爪鮮やかに寒椿
桜東風レジャーシートが空の色
永日やカレーライスと恋心
 



イプシロン 楢(衣衣 選)

花冷えや弁当囲んで引っ越しの話
友だちの友だちとのむ夏氷
夕凪はおふろに入ったところです
秋天や青信号に気づかなく
林檎酒ふふみて耳がよく通る
水鳥のくちばし折ったお菓子です
いつまでも昨日でよいと足あぶる
かなしみは感光されて冬の虹
その響き「イプシロン」なり春の風邪
初星や遠く近くに祈りあり
 



地図をなくした 日比藍子(楢 選)

月明かりタクシーの背に鳥の夢
ヒール脱ぎ階段降りて梨かじる
無花果の粒噛みながら皿洗う
チョコチップ買って眺める渡り鳥
寒鴉一声啼きて夜来たる
冬紅葉落ちた後ろを振り返らず
糸くずをつまんで聞ける除夜の鐘
雛壇の裏に隠れて飲むお酒
永日や母の香りを懐かしむ
春の雨地図をなくした女の子




イエスタデー  

うららかや外国人(とつくにびと)に道教ふ  楢
かげろふを手玉に取つてゐるところ  楢
亀鳴くや二人がかりで思い出す  楢
三つ編みがほどけてしまう余寒かな  楢 
効用に春寒とあるハーブティー  伊吹
証明写真機足飛び出してうららかに  伊吹
あの店に寄れる気がする日永かな  藍子
牛タンを舌で転がす猫の恋  衣衣
うつむいた聖母の角度春の雪  衣衣
花冷えやトリビュート版イエスタデー  衣衣
 

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