ひかり
林昭太郎句集『あまねく』の一句
西原天気
小鳥来る紅茶の中に日が射して 林昭太郎
ふだん見ているはずなのに気にもとめないもの/ことを思い出させてくれる、思いを至らせてくれるというのは、もう擦り切れるくらい繰り返し言われていることではあるのですが、また、保守的でつまらない読み方ではあるのですが、やはり、これはもう俳句の愉しさではあるわけです。
紅茶の中に日が射す。どうということのない数センチの景色。しかし、あの光の感じは、紅茶の中でしか起こり得ない。
「小鳥来る」は、そこが光が紅茶の中にまで届く場所であるとことを伝えるのに最適です。それほど説明的(俳句的ジャルゴンですね、「説明的」。でも、まあしかたなく使います)でもなく、空気感(これもイヤな語だなあ)や気分(これはイヤじゃない)も伝わります。
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林昭太郎さんは、巻末のプロフィールによれば、1941年生まれ。76年に「沖」入会。途中25年ほどの中断期間ののち2004年に作句再開、「沖」再入会。『あまねく』は第一句集。気持ちのいい句がたくさんあります。集中より気ままに引かせていただきます。
白鳥の押しひろげゆく日曜日
膝の辺(へ)に日傘の温し映画館
グラビアの肘に貼りつく薄暑かな
あたたかや複写重ねて太る文字
黴の華栄ゆることのかくしづか
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2012-09-23
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