2013-03-24

第3回10句競作 入選作 テキスト

第3回10句競作 入選作


大賞
 
 日曜日 涼野海音

山眠る絵本の中の雪とけず   
コート吊る窓に石鎚晴れてをり 
如月の雲わかれゆく大欅    
鳥雲に雫のやうなイヤリング
啓蟄や日の差してゐる兎小屋 
春の川覗いてゐたる双子かな 
グラタンに少し焦げ目や鳥の恋 
花の種蒔いてしづかな日曜日  
水温む壁に山下清の絵 
滅びゆく星の桜を仰ぎけり



大賞

 見えぬもの 三浦 郁

ゲル動くやう寒明の交差点
鳥帰るプレハブ校舎に換気扇
啓蟄や産業廃棄物収集
地球儀に佐保姫の息触れにけり
花あかり通夜の柩のかたはらに
ハチ公はけふも待ちます養花天
掃除機をさうぢしてをり花の昼
吸殻の浮くにはたづみ蜃気楼
桜蘂ふる見せ消ちに潜むもの
スプリングセールのペットショップかな



準賞

 頽落の日々 渕上信子

狼の亡びし後の赤づきん
項垂れて歩むものには犬ふぐり
曇天の梅のをはりの腫れぼつたし
ポケットにあたたかなごみ増えにけり
主老ゆ春蚊のごとく訪ぬれば
リラの雨監視カメラの前でキス
鳥交る詐欺師について学びし日
まるまると太りし虻のホバリング
墓々やおのもおのもに春の夢
十万年後のオンカロのチューリップ



岸本尚毅さんおすすめ

 春水 前北かおる

塵芥の漂ひそめて水温む
淀みよりじわりじわりと温みゆく
折鶴のかかる碑水温む
竿振ひ仕掛けを飛ばす春の水
一列になりて歩くや水温む
街裏に抜くれば日向水温む
よく光るトランペットや水温む
春の水細くなりゐし目をひらき
水温むふと口笛が吹けさうと
トンネルを出づれば春の水の上



阪西敦子さんおすすめ

 猫の子 今村 豊

初鏡ファイティングポーズとつてみる
駈けてきて行きすぎる人冬木立
待春の鳥をつかめば骨のある
地下鉄で帰るふるさとミモザ咲く
卓袱台を三つつなげる春祭
馬たちのコの字囲ひに仔馬をる
胸に手を入れて猫の子受け取りぬ
黒板消し挟みし戸より春の風
共学に変はる女子校卒業す
オムレツを開くナイフやらいてう忌



馬場龍吉さんおすすめ

 風の日 五十嵐義知

風の日の浅き眠りや午祭
切り離す切手の縁の余寒かな
金星の昼となりたる雪解水
その中に羽散らばりて薄氷
連山の谷ゆるやかに凍ゆるむ
雪代の枝先流しつつ流れ
早春の金管楽器抱く腕
料峭の水深深き湖上かな
春めくや塀より長き箒の柄
ありあはせのもののひとつに春ショール



村越敦おすすめ

 転ぶ 吉野わとすん

冬の日の松が泣きたくなつてゐる
荒れてゐる腕が土星を包むなり
転ぶ自分は白いと思ひつつ転ぶ
洗顔ののちの尖塔蒼かりき
はぶらしに水の妖精いつも居る
のこぎりに夢引くときの静かさよ
屈託をバスに積んでる雪国だ
悪童の息がどうにも蜜柑なり
虫ピンに虹押さへれば虹虫に
網に星ではない魚だと笑ふ

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