2013-09-01

林田紀音夫全句集拾読 281 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
281

野口 裕





取残される橋燈の徐々に濃く

平成四年、未発表句。「亜紀荷出し」の詞書。一人娘の結婚が目前に迫る。橋燈は橋の両側に対で配置されるのが普通である。したがって、自画像というよりは、送り出す側の老夫婦を暗示するものとなる。



雪を被てしばらく山は声をのむ

平成四年、未発表句。声をのむのは山のはずだが、作者の動作を暗示しているようでもある。自身の沈黙が山に反映し、山の沈黙が沈黙を増幅する。薄くかぶった山の雪はいつまで持つか。



水使う音の家族と共に夜

菜の花の道の途中の岐れ道


平成四年、未発表句。二句目に、「3/7亜紀結婚式(東武ホテル)」の詞書。ここからしばらく結婚式前後の句が続く。平成五年の花曜発表句、 「祝婚の俄に薔薇の棘目立つ」と比較すると、素直な心情を吐露する句では発表するまでもないという作家の矜持が読み取れる。だが、一句目など、結婚前夜の 特殊状況から生まれた句ではあるが、それを離れて一般性を持つ。

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