14 祝福 山下つばさ
菜の花や涙こぼさぬやうわらふ
深々とお辞儀の奥のチューリップ
雛壇の赤き砂漠を畳みけり
工場の母へ春の雪をもつと
白梅や目玉だんだん濡れてゐる
排卵をとめる薬や花の雨
花人は営業車へと戻りけり
パンの耳残す鴨の春のために
枝垂桜北海道のかたちして
春雨を警察官の指す方へ
鳥雲に風疹の子の手を引いて
藤棚に永遠続くおままごと
白く細くざりがにを探す手足
御利益の砂とハンカチ鞄の底
夕立の部屋をゆききするはひはひ
軽鳧を追ふデジタルなこどもたち
心臓の高さに金魚棲まはせて
紫陽花に隠れサラリーマン静か
スーパーの奥に鯵捌く巨漢
店内のテレビ一斉に夏潮
祝福のトマト一山買ひにけり
万緑へ放り出さるる家族かな
十薬の群れの明るさほどの領土
はりつけの像を近くに衣更ふ
梅は実にきみは秘境のやうなひと
昼顔の来世ばかりが気になつて
木下闇手相見せ合ふをとこたち
青嵐『目ざめよ!』を手にをんなたち
まつらるるきつねのしろさ梅雨晴間
万歳をゆく夕立の山手線
水母浮く川の向かうの中華街
奴ら裸のまま散り散りに去りぬ
立秋の飛行機となる新聞紙
不登校始めるふくべ垂れてより
かまきりと道譲り合ふ日和かな
秋雨やダムを満たせるものたくさん
朝顔につはりのゆびを吸はしけり
貝殻の散らかる部屋へ月の友
玄関に南瓜の積まれある生家
朝霧に都会の産毛直立す
冬の駅犬突然に走り出す
マフラーに大き黒子の隠さるる
前髪を直線に切る冬の雨
しもやけの手がぷちぷちをつぶしをり
冬の蝶鉄の扉を這ふやうに
海のをはりに水鳥の揺れてゐる
レジ打ちの人の冷たき手に触るる
錠剤で作る星座や冬籠
万両を見上ぐる水道管工事
白鳥と同じ顔して環八へ
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2013-11-03
2013落選展テキスト 14山下つばさ 祝福
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1 comments:
14 祝福 山下つばさ
工場の母へ春の雪をもつと
なにか、とてもエロチックかつロマンチックな内容だという気がします。みなまでは、言わせないでください。
紫陽花に隠れサラリーマン静か
「工場」や「サラリーマン」を出して、やさしくメルヘン的であることが、ちょっと似た表現を思いつかない、良好なバランスだと思いました。好感。
水母浮く川の向かうの中華街
海のをはりに水鳥の揺れてゐる
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