2013-11-03

2013落選展テキスト 14山下つばさ 祝福

14 祝福 山下つばさ

菜の花や涙こぼさぬやうわらふ
深々とお辞儀の奥のチューリップ
雛壇の赤き砂漠を畳みけり
工場の母へ春の雪をもつと
白梅や目玉だんだん濡れてゐる
排卵をとめる薬や花の雨
花人は営業車へと戻りけり
パンの耳残す鴨の春のために
枝垂桜北海道のかたちして
春雨を警察官の指す方へ
鳥雲に風疹の子の手を引いて
藤棚に永遠続くおままごと
白く細くざりがにを探す手足
御利益の砂とハンカチ鞄の底
夕立の部屋をゆききするはひはひ
軽鳧を追ふデジタルなこどもたち
心臓の高さに金魚棲まはせて
紫陽花に隠れサラリーマン静か
スーパーの奥に鯵捌く巨漢
店内のテレビ一斉に夏潮
祝福のトマト一山買ひにけり
万緑へ放り出さるる家族かな
十薬の群れの明るさほどの領土
はりつけの像を近くに衣更ふ
梅は実にきみは秘境のやうなひと
昼顔の来世ばかりが気になつて
木下闇手相見せ合ふをとこたち
青嵐『目ざめよ!』を手にをんなたち
まつらるるきつねのしろさ梅雨晴間
万歳をゆく夕立の山手線
水母浮く川の向かうの中華街
奴ら裸のまま散り散りに去りぬ
立秋の飛行機となる新聞紙
不登校始めるふくべ垂れてより
かまきりと道譲り合ふ日和かな
秋雨やダムを満たせるものたくさん
朝顔につはりのゆびを吸はしけり
貝殻の散らかる部屋へ月の友
玄関に南瓜の積まれある生家
朝霧に都会の産毛直立す
冬の駅犬突然に走り出す
マフラーに大き黒子の隠さるる
前髪を直線に切る冬の雨
しもやけの手がぷちぷちをつぶしをり
冬の蝶鉄の扉を這ふやうに
海のをはりに水鳥の揺れてゐる
レジ打ちの人の冷たき手に触るる
錠剤で作る星座や冬籠
万両を見上ぐる水道管工事
白鳥と同じ顔して環八へ


1 comments:

上田信治 さんのコメント...

14 祝福 山下つばさ

工場の母へ春の雪をもつと

なにか、とてもエロチックかつロマンチックな内容だという気がします。みなまでは、言わせないでください。

紫陽花に隠れサラリーマン静か

「工場」や「サラリーマン」を出して、やさしくメルヘン的であることが、ちょっと似た表現を思いつかない、良好なバランスだと思いました。好感。

水母浮く川の向かうの中華街
海のをはりに水鳥の揺れてゐる