1 遠道 神山朝衣
白梅に立ち上りたるはるかな肩
寄居虫のやうにくつきり生きてゐる
豆撒きに粗き右手の加はつて
棒立ちで見る如月もにんげんも
涙して涙がかはきあたたかし
ふらここを囲んでゐたる犬と人と
心中のどつと溶けだす鳥雲に
春光のとどかぬ道で待つてゐる
三月や吾子の肩には積もらぬ雪
春泥のずつと春泥のままの場所
ふつつりと旅立つ空は花の間
遠足の一両わらわらしてゐたる
更衣折り目のつんとかたの上
鯉のぼり列車の窓に数えたる
ひとつづつ粽のかをり解きはじめ
片付けの歌のはじまる目高かな
ほほゑみの起こす風かも山桜桃
蚊柱や吾子のしやがんでゐる空に
秘密聞く螢を籠に遊ばせて
天道虫飛び立つまでを重なれる
虹出たよ虹が出たから大丈夫
立ち止まることを教へむ棕櫚の花
瓜の花食器だらけの母の家
月見えぬ窓扇風機まはる音
遠雷や棚に戻さぬ本あまた
届くまで呼びつづけるか桐の花
静けさのひたとはりつく夏の寺
鰻屋の百合は大きく吹かれたる
蝉なきそむるか老幹の明るさに
夏落葉一段ごとに見上げる眼
後悔の念に夏蝶をどりだす
蜩やすぐ雨乾く細い道
簑虫に返事のやうな風のきて
子のすべて抱きてゐたる良夜かな
秋蝶の去りし柱のかたはらに
紫苑咲く門より壊しはじめたる
灯されて草の暗さの花野かな
一羽だけ大きく見えて鳥渡る
新しきことの煩く榠樝の実
月の道何かに迷ふ背であれば
眠られぬ横顔を置き秋の声
団栗に子のてのひらの喜んで
確かなる馬の歩がゆく冬日かな
鉄道の細く光りて冬の川
葱買つてここは初めて通る道
小さき尾に高き冬木の鳴りつづく
日のいろを知る冬蝶に出会ふたび
北風吹いて木木を起こしてゆくところ
冬ぬくし泡に微かな泡の音
凩や追ひついて手を繋ぐまで
●
2013-11-03
2013落選展テキスト 1遠道 神山朝衣
登録:
コメントの投稿 (Atom)
1 comments:
>葱買つてここは初めて通る道
買った葱という胸元か小脇か身体の近くあって親しいものと、足が踏む「初めて」の道。
みずみずしいです。
コメントを投稿