2013-11-03

2013落選展テキスト 5草原の映写機 澤田和弥

5 草原の映写機 澤田和弥

アンテナは何を受けとむ鳥曇
時計塔奏ではじむる春の月
冴返る夜空に眠るやうな蒼
白魚に透けぬ命のありにけり
春浅き空に鉄塔一直線
春めくやカクテル淡きブルーとし
はらはらと散るもの多し仏生会
春愁や絵本の中の王子様
看板のどれもさびしき春なりけり
春風や少女ピアノに伏して泣く
雪虫や病床が今死の床に
春北風や八田木枯亡き後も
針魚食ふ父の激しき咳を背に
梅が香よすでに故人となる未来
春雨や刃先ひとまづパンに向け
雪割や死にたき人がここにもゐる
蒸鰈箸もて殺されし人も
花は常に死につつ生くる西行忌
春寒の股広げれば嬉しがる
彼岸会や二十分から天気予報
海雲渾然一体として人類にはなれず
ふらここや肉親よりも近きは死
白日傘真白きままに遺さるる
花の夜のいとしづかなる死産かな
落つること期待されたる椿かな
さびしさの乳首をつまむ春の宵
亀出でて無能無能とわれに鳴く
ひとつづつ時計を壊す春の月
魔女と書けば鷹女に見ゆる春の雷
卒業や手首の傷を隠しつつ
濃山吹濡れて女の訃報かな
春夕焼骨壺のごと眠りたし
見えぬ目に灯し火かざす修司の忌
修司忌の旅立つ前の鞄かな
どこよりも青き空あり修司の忌
修司忌の眠られぬ夜のオルゴール
修司忌や光の戻る映画館
修司忌の砂丘に落ちてゐる手紙
修司忌の誰もが修司地下酒場
暗転ののち何もなし修司の忌
修司忌を叩き割りたる未亡人
修司忌や時計殺しは月殺し
修司忌や血もて村守る人々よ
くせ強き恋文の文字修司の忌
響きゆく無音のピアノ修司の忌
タロットに首吊る男修司の忌
修司忌の女獄舎に婆数多
修司忌の女裸身のままに吼ゆ
草原に映写機ひとつ修司の忌
革命を捨てし祖国よ花菜雨


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