小川春休
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もろこしの髭をたくさん見て訪ひぬ 『一筆』(以下同)
たくさんのとうもろこしの髭は、大きな畑で育てられているのか。それとも辺りの農家がそれぞれに育てているものか。歩を進めれば目の前に広がる、光に満ちた景。訪う人と訪われる人という関係が、景を自然に展開させ、また景を温かなものにしている。
お習字の濡れてゐる間のゑのころよ
「お習字」との言い方から、子供の手習いの景と思われる。何枚もの半紙に書き上げた中から、一番出来の良いものを選び出す。墨をたっぷり付けて書いた元気の良い字が、まだ濡れている。窓外には揺れる猫じゃらしも見え、明るい充実感に満ちた句だ。
養鰻の見廻りの灯の露けしや
「浜名湖 四句」と前書のある句の内の一句。温暖を好むため、ビニールハウス内で養殖される鰻。秋の時期にビニールハウスに居るのは、来年の出荷に向けて育てられているまだ幼い鰻であろうか。夜の闇を行く見回りの灯の露けさと、ひしめき合う小さな鰻たちと。
月白や下草刈の被り解く
月白とは、月の出頃に東の空が白んで明るくなりかかっていること。空気も澄んで、月の光も強く感じられる秋ならではの季語だ。被りをしているところから、まだ日のある内に草刈りを始めたのだろう。地の草の方ばかりを見ていたら、気付けば空はもう月白に。
月祀る薬いろいろ飲みてより
こういう句を読むと、既に爽波も齢六十を超えているということをしみじみと感じる。しかし掲句は、決して湿っぽくなることなく、「こんだけ薬飲んどいたら月見酒なんぼ呑んでも大丈夫やろ」とでも言うような、月見を楽しむ軽やかさを感じさせる一句となっている。
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