2014-01-26

朝の爽波101 小川春休



小川春休




101



そう言えば先週の一月二十一日は爽波の誕生日でした。爽波は大正十二年(一九二三年)の生まれ、もし今も存命であれば九十一歳の誕生日となります。同じ年生まれの著名人としては、三波春夫、三國連太郎、鈴木清順、リチャード・アッテンボロー、池波正太郎、遠藤周作、司馬遼太郎、田村隆一、大山康晴、大山倍達、岸朝子、忠犬ハチ公など。さて、今回は第四句集『一筆』に収録された最後の年「昭和六十三年」から。今回鑑賞した句は昭和六十三年の夏の句。今回鑑賞した〈舟虫のアロエの鉢の蔭へみな〉〈蠅取紙蠅みな潰れゐたりけり〉の二句が続けて「みな」を用いていますが、もしかすると兼題か席題だったのでしょうか。ちなみにこの時期、年譜上は特にこれと言った記載がありません。

舟虫のアロエの鉢の蔭へみな  『一筆』(以下同)

海の近くで目にする舟虫は、人の気配を敏感に察し、群れで一斉に動く。掲句、舟虫の数は十か二十かそれ以上か、人の気配を察して一斉にアロエの鉢の陰に避難しているが、このアロエも大きな鉢に植えられ、海辺の強い日差しに大きく育ったものが目に浮かぶ。

蠅取紙蠅みな潰れゐたりけり

「みな」を用いた句が続く。誘引材が付いた粘着テープを天井や鴨居などから吊し、寄ってくる蝿を捕獲する蝿取紙。「みな」とは何匹ぐらいの蝿であろうか、長い蝿取紙にびっしりと蝿が付いた様子が目に浮かぶ。蝿が付いてからかなりの時が経過しているようだ。

くらんぼ食べゐし女いつか下車

ある程度長距離の移動、たまたま列車に乗り合わせた女性が、さくらんぼを食べている。さくらんぼの鮮やかな赤が次々に女性の口へと消えて行くのを、見るともなく見る。気付くと女性は下車してしまっているが、その色彩だけがぼんやり印象に残っている。

花茣蓙の我を覗きに雀くる

藺を種々の色に染め、様々な模様に織り出す花茣蓙。その色彩と藺の清々しい香の涼感を楽しむ夏の調度である。掲句では大きな窓近くか縁側に敷かれているのか、雀も物珍しげに寄って来る。夏の明るい日差しと、ゆったりとした明るい心持ちとが自然と窺われる。

明易の濡れ雑巾を踏み出づる

夏の夜は短く、たちまち朝になるように感じる。掲句は夏の早朝、家から出発する場面だが、それより早く拭き掃除が始まっていたようで、濡れ雑巾を踏んでしまう。出発を焦っていたのかも知れない。古来詠まれてきた明易の情緒に負けない生活感が窺われる句。

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