2014-01-26

SUGAR&SALT 10  少年に誘はれ立てり春いづこ  三橋敏雄 佐藤文香

SUGAR&SALT 10 
少年に誘はれ立てり春いづこ 三橋敏雄

佐藤文香

「里」2011年1月号より転載


空気疲れの地球可愛や初嵐  三橋敏雄

『畳の上』のこの句を見て、あっと思って、池田澄子『たましいの話』を取り出した。

フルーツポンチのチェリー可愛いや先ずよける  池田澄子

「くーきづかれ」と「(ふ)るーつぽんち」の音は、長音・アクセントの位置が同じ《6音+の》の上七(「ふ」は無声音なので1音以下のカウント)。「ちきゅー」と「ちぇりー」はアクセントの位置こそ違えど、「ち」で始まり長音の位置が同じ似ていると言える名詞、助詞ナシで《可愛(い)や》。下五、「はつ」と「まず」も、類音。

内容的にこじつけて理解するのは多少強引だが、敏雄句の地球が澄子句のチェリー、地球をとりまく大気がフルーツポンチ全体で、まずよける、というのはまず吹き荒れる嵐と通じる。そして、卓上のガラス皿からチェリーをつまんで微笑む池田澄子と、地球儀サイズの地球に笑って息を吹きかける三橋敏雄(神)が重なる(私だけか)。

この連載の2回目で、池田澄子〈的はあなた矢に花咲いてしまいけり〉の的は俳句で俳句は三橋敏雄だ、と書き、最近また豈の池田澄子特集でも二人のことを書いたのだが、しつこく書く。どの句かをふまえていることがはっきりわかるという程でもなく、また評論で暴くようなことでもなく、これはひとつ恋物語でも仕立ててその最後に『たましいの話』を据えれば……と妄想をして、泣いてしまった。相聞歌の入った歌物語の俳句バージョンのようなフィクションという手もある。

そんなことを考えながら『畳の上』のなかの好きな句を挙げると、

家毎に地球の人や天の川  三橋敏雄
死に消えてひろごる君や夏の空  三橋敏雄

これらには池田澄子『たましいの話』から、〈まくなぎよ地球は君をこぼさない〉〈死んでもいいとおもうことあれどヒロシマ忌〉(76ページに並んでいる)を添えたくなる。敏雄は遠くて広く、透けてゆく。澄子はここにたしかに、ぎゅっと、ある。どちらにも共通するのは存在の果てしなさか、しかしそんな上面の言葉ではなく、ふたりはつながっている。ひろごる、ヒロシマ。あ、〈やどかりや地球だんだんあたたかく〉もあった。

日月や走鳥類の淋しさに  三橋敏雄

この句は、〈人類の旬の土偶のおっぱいよ〉で慰めたい。どちらも時間と動物(〜類)の作品で、無季。敏雄のいない今の、季節はと言えば……冬か。

これからの冬の永さを畳の上  池田澄子




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