2014-03-09

【週俳2月の俳句を読む】俳人の意地 小早川忠義

【週俳2月の俳句を読む】
俳人の意地

小早川忠義


コンビニに冬の朝注がれていく  内藤独楽

混沌の欠片たとえば冬銀河  同

一句目。冬の朝の日差しは室内の深いところに差し込んでくる。終日明るいコンビニという空間だからこそその現象がより実感させられるところ である。二句目含めて、作者の取材の範囲は日常の中の僅かな季節の感覚。その僅かな感覚が固い熟語や目を引く動詞によって損なわれる心配が付 きまとう。


髪に挿しまだ息をしている椿  原知子

お三時や二人で汚す春の指  同

連作全体に「たおやめぶり」が前に出ている。一句目は、いずれ差している髪から落ちてしまう危険性も孕んだ危うい美しさを共有していたいと いう切実な願いも併せ持つ。表題にもなっている二句目は、上五の丁寧な言い回しがともすれば下品に取られそうな事柄を見事に浄化させている。


下萌やだんだん馬鹿になつてゆく  加藤水名

馬鹿と言ふと本気で怒る春炬燵  同

バレンタイン斑模様のテロリスト  同

作者にとって春の暖かさが実感されることイコール馬鹿になるということらしい。馬鹿のピークはやっぱりお花見のシーズンか。自分ひとりでも 相手だけでもなく、お互いに同じ早さで馬鹿になっているのだから悪いことでもない、と二句目の春炬燵のぬるさも代弁しているようだ。表題の三 句目、バレンタインデーを「バレンタイン」と略すのは言葉足らずのような気がした。


狡賢いボス猿狡賢い春風  瀬戸正洋

春大根口を利かなくなつた妻  同

一句目。中八じゃなかったら良かったのだ。鼻をくすぐる、何かをしたくなるような春風が狡賢いのは首肯できるところ。二句目は、奥さんに対 して季語で「一矢を報い」たところに俳人の意地を見た。


蝦夷鹿の食痕の樹の根開けかな  広渡敬雄

ペリットの白き羽毛や春の風  同

北海道における冬から春に掛けての長い寒さをどう表すかは思案のしどころだったと思われる。後半の季語の選び方にただ真っ白なだけの世界で はないことを予想させることに成功している。


ケセラセラ立夏の雨の嬉しくて  内村恭子

黒あげは道は乾いてをりにけり  同

http://shiika.sakura.ne.jp/haiku/hai-colle/2012-03-30-7393.html
作者の人となりを調べて「詩客」に寄せられていたこの文章に突き当たった。

同じ昭和四十年代生まれであり、同じような悩みを抱える者としてシンパシーを禁じ得なかった。

さて、そんな思いとは裏腹に表題でもある一句目は、生暖かい雨にも心を軽く持ちたいものだという「ケセラセラ」とは言いながらも強い意志が 出ている。例え今道は乾いていても、二句目の黒あげはのように自在に飛んで行きたいものである、と思いを新たにさせてもらった。


第354号 2014年2月2日
内藤独楽 混 沌 10句 ≫読む
第355号2014年2月9日
原 知子 お三時 10句 ≫読む
加藤水名 斑模様 10句 ≫読む
第356号 2014年2月16日
瀬戸正洋
 軽薄考 10句 ≫読む

第357号 2014年2月23日
広渡敬雄 ペリット 10句 ≫読む
内村恭子 ケセラセラ 10句 ≫読む

0 コメント: