2014-06-01

平成百人一句  選後所感 宗田安正

平成百人一句 
選後所感

宗田安正

『アナホリッシュ國文學』第5号冬・平成25年12月20日発行より全文転載




与題は「百人一句」。四半世紀に達した平成年間の作品を対象に何かを表現しようとしている作品を中心に選んだ。

近代俳句は、子規の俳句革新以来、常に近代化、つまり近代的主体の表現をめざしてきたが、昭和末期の経済至上主義、情報社会の進展による社会構造の変化により絶対だったその近代的主体が溶解、俳句にも前代のような文学運動は皆無になり、俳句自体も表現する器から表現できるものを探す器に変質した。

また高度経済成長による余裕とカルチャーブームで、女性の俳句人口が激増。作品自体も、日常生活での共感、頷き合い、表現の洗練のレベルで満足するものが支配的になる。

平成に入り、バプル景気も破綻したがその俳句の趨勢は変わらず、〈情緒安定産業〉(江里昭彦)として俳壇に或る種の経済的繁栄をさえもたらすことになる。

ところが近年、或る新人達のアンソロジーをきっかけに、にわかに若手中心に新しい〈表現〉を求める動きが出てきた。

たとえばかつての高柳重信、夏石番矢なども句集ごとにテーマと表現方法を変えたが、関悦史句集『六十億本の回転する曲がつた棒』(平23)は、現代風俗詠、或る館をめぐる高踏派的幻想的作品、介護俳句、『百人一首』パロディー、震災俳句など七テーマを、テーマごとに一般的表記、総ルビ・正漢字、カタカナ表記など表現方法を変え、一冊に収める。

この多元性が関の内面の現実から発せられているため、全く分裂感がない。

先輩格の高山れおな句集『俳諧曾我』(平24)も、『曾我物語』やシャルル・ペローの童話に基く連作、フィレンツェ印象詠、『詩経』の俳句化、「原発前衛歌」などの有季俳句、多行俳句、横組俳句、平仮名俳句等を一巻に収める。

関句集よりもテーマの設定と作者との関係が自由で、それだけより自由にテーマ、俳句形式及び言語そのものの多元的可能性に挑むことになる。

高橋修宏句集『虚器』(平25)も、九・一一同時多発テロや東日本大震災と原発事故など、近代の人間中心主義の崩壊により露出した〈虚〉に注目、俳句による壮大な〈虚の人類史〉〈虚の叙事詩〉を展開する。

これらの句集からも各一句を抄出したが、その成果は句集を読んで戴くしかない。

世界文学の一ジャンルとしての俳句運動を海外で展開する夏石番矢、実存俳句九千句を書下ろす西川徹郎ともども、近代にはなかった新しい時代の表現主体の登場と言ってよい。

従来の方法による俳句の展開、大震災の俳句への影響の深まり(中世の『方丈記』が対峙した地震などの天災、社会運動によって露出する無常は、『平家物語』や『徒然草』、更に後の能や石庭などを生み出すことになる)ともども、その今後に期待したい。 

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