15 室の花 津野利行
面倒な奴で結構磯巾着
腹癒せに望み通りの春ショール
雛納覚える気なき男親
花冷やトロンボーンの音震へ
花疲れはぐれたままにネオン街
平坦な道などなくて芝桜
人と会ひまた人と会ふ花水木
よちよちと躑躅の中へ倒れ込む
絶望の崖つぷちから亀の鳴く
外面のよき玄関のシクラメン
波風を立てずに蜂は去るつもり
春愁や関西弁と関東弁
まだ大人にはなり切れぬ若葉かな
釜茹でにされし筍生き返る
薔薇一輪咲かせて雨の光りけり
目に青葉電源を切るタブレット
一線を越えて部屋まで来る蠅
蚊を討つは一国一城の主
そんな顔してそんな簡単服で
ナイターに今来てますと電話かな
もう序列あり六月の一年生
夏掛は妻を小さく包みけり
いたずらが好きなおやじの水遊び
孫のゐるにはまだ若きサングラス
大学は辞めたと笑ふ生ビール
目移りの結果結局あんみつに
何もなき父の形見や心太
PTA会長の夏負けと見え
祖父の背の傷痕を知る夏休
弟をおもちやにしては兜虫
無理させる一時帰宅や本祭
母の死を待つかのやうに秋に入る
知らぬ顔知らぬ仏や施餓鬼寺
身に入むやラッコは腹の貝を割る
新婚の一組交じる芋煮会
敗荷や皆疲れたるサラリーマン
手付かずの人参がまだ皿にある
マスクなら妻に言はれてからにする
クリスマスケーキ一口癌病棟
父母の分まで生きて古暦
母の古日記どつかと読みふける
母の死のことには触れず晦日蕎麦
麻雀のルールを賀詞に続けをり
どうせなら百まで生きて初写真
子の遠出許した隙の姫はじめ
親の手を借りて立派な雪だるま
人日や雀にこぼす米の粒
初仕事昼には顔の揃ひたる
理由なら聞くまでもなく雪だらう
室咲は枯れぬ気でゐたかもしれぬ
2014-11-02
落選展2014_15 室の花 津野利行 _テキスト
登録:
コメントの投稿 (Atom)
2 comments:
面倒な奴で結構磯巾着
けっこうけっこう、生きることの面倒を避けようとしてもどこかにしわ寄せがいく。がっしり岩に食らいついてこそのこともある。
弟をおもちやにしては兜虫
子どもの無邪気さと残酷さが、入れ子上に重ねられる。兜虫は黙ってたたかう。
人日や雀にこぼす米の粒
正月はなんやかやで人が集まり、どこもそれなりに賑やかだ。あいさつと饒舌に疲れたとき、言葉のない関係に安らぐこともある。
ささやかな境涯を季語、とくに動物に託すところに味わいがある。
四羽さん、コメントありがとうございました。励みになります。
コメントを投稿