16 バンテージ 谷口鳥子
へッドギア何度も直す熱帯夜
ラスト十秒へばりつく前髪が邪魔
飲みこめぬ水首伝いTシャツへ
回り込みサンドバッグ打つ炎昼
バーベルを保持しスクワット汗みどろ
蝙蝠やサウナスーツで懸垂す
前腕より逆流の血がかなかなに
三階のジムへ柏餅飲み込んで
グローブとシューズぎっしり虫干す
ダンベル握りボディアッパー夏真昼
ががんぼやグローブのテープ歯で締める
容赦なく打ちくる小五の日焼け顔
ブロックのグローブの隙へ飛魚
夏雲や鼻血を拭う左腕
休憩一分枯紫陽花見下ろして
蟬の鳴くリズム外してストレート
頭残し半歩踏み込む夕立来
夜の蜘蛛全て異なるパンチの軌道
バンテージに吸い込まれる汗午後八時
天道虫ハーフパンツのスリットに
反撃のミットは大蛸会長来る
マウスピースと制汗スプレーロッカーに
翅開く蛾貧乏ジムの掲示板
青葉木菟最終バスは二人きり
朝焼雲左股関節より異音
ビル風にバンテージこんがらがって
サングラスのままカヌレ喰うリングサイド
淡淡とノックアウトの糸蜻蛉
非対称の背筋連動夏の夜
フック入る汗しぶき背に羽生える
グローブの間で笑う血の目と歯
炎熱のリングへ放られた黒タオル
饒舌な勝者を抱くアロハシャツ
夏行くやサンドバックはでこぼこで
グローブにファンデーション付く秋の暮
フェイントにまた騙されて朧の夜
のっぺらぼうの月と並んでジム帰り
胸伸ばす喉こじあけていく寒気
しゃくれ顎減量は青ニット帽
攻めるのは腹斜筋のみ白息吐く
首ぐわり錘上げ下げ霜の夜
ジョグダッシュジョグダッシュ十一月
元日や自在にうごく肩甲骨
初稽古鉄円盤抱え腹筋
足指から弛緩していく木の芽時
片脚でバランスボール風光る
春夕べチャンピオン来る茶チワワ抱き
膝と腰と首でリズムを夏来たる
ロープに跳ねびゅびゅっと屁五月来る
正面に夏月ジャブを繰り返す
2014-11-02
落選展2014_16 バンテージ 谷口鳥子 _テキスト
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1 comments:
頭残し半歩踏み込む夕立来
この踏み込みはジャブだろうか? 果てしない反復練習、突然の豪雨、ひたすらに打ち続ける時間。
非対称の背筋連動夏の夜
不自然なまでに鍛え上げられた筋肉の隆起は、強い目的意識をあらわしている。皮膚の下に満ちる熱。
胸伸ばす喉こじあけていく寒気
上気した体内に、ぐいと冷気を吸いこむ。酸素が血液をめぐり、疲れた頭もすっと冴えてくる。
ボクシングで統一された連作。肉体の硬質な描写が空気を引き締める。
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