2014-11-02

落選展2014_16 バンテージ 谷口鳥子 _テキスト

16 バンテージ 谷口鳥子

へッドギア何度も直す熱帯夜
ラスト十秒へばりつく前髪が邪魔
飲みこめぬ水首伝いTシャツへ
回り込みサンドバッグ打つ炎昼
バーベルを保持しスクワット汗みどろ
蝙蝠やサウナスーツで懸垂す
前腕より逆流の血がかなかなに
三階のジムへ柏餅飲み込んで
グローブとシューズぎっしり虫干す
ダンベル握りボディアッパー夏真昼
ががんぼやグローブのテープ歯で締める
容赦なく打ちくる小五の日焼け顔
ブロックのグローブの隙へ飛魚
夏雲や鼻血を拭う左腕
休憩一分枯紫陽花見下ろして
蟬の鳴くリズム外してストレート
頭残し半歩踏み込む夕立来
夜の蜘蛛全て異なるパンチの軌道
バンテージに吸い込まれる汗午後八時
天道虫ハーフパンツのスリットに
反撃のミットは大蛸会長来る
マウスピースと制汗スプレーロッカーに
翅開く蛾貧乏ジムの掲示板
青葉木菟最終バスは二人きり
朝焼雲左股関節より異音
ビル風にバンテージこんがらがって
サングラスのままカヌレ喰うリングサイド
淡淡とノックアウトの糸蜻蛉
非対称の背筋連動夏の夜
フック入る汗しぶき背に羽生える
グローブの間で笑う血の目と歯
炎熱のリングへ放られた黒タオル
饒舌な勝者を抱くアロハシャツ
夏行くやサンドバックはでこぼこで
グローブにファンデーション付く秋の暮
フェイントにまた騙されて朧の夜
のっぺらぼうの月と並んでジム帰り
胸伸ばす喉こじあけていく寒気
しゃくれ顎減量は青ニット帽
攻めるのは腹斜筋のみ白息吐く
首ぐわり錘上げ下げ霜の夜
ジョグダッシュジョグダッシュ十一月
元日や自在にうごく肩甲骨
初稽古鉄円盤抱え腹筋
足指から弛緩していく木の芽時
片脚でバランスボール風光る
春夕べチャンピオン来る茶チワワ抱き
膝と腰と首でリズムを夏来たる
ロープに跳ねびゅびゅっと屁五月来る
正面に夏月ジャブを繰り返す

1 コメント:

四羽 さんのコメント...

頭残し半歩踏み込む夕立来
この踏み込みはジャブだろうか? 果てしない反復練習、突然の豪雨、ひたすらに打ち続ける時間。

非対称の背筋連動夏の夜
不自然なまでに鍛え上げられた筋肉の隆起は、強い目的意識をあらわしている。皮膚の下に満ちる熱。

胸伸ばす喉こじあけていく寒気
上気した体内に、ぐいと冷気を吸いこむ。酸素が血液をめぐり、疲れた頭もすっと冴えてくる。

ボクシングで統一された連作。肉体の硬質な描写が空気を引き締める。