2014-11-02

落選展2014_23 菜の花 前北かおる_テキスト

23 菜の花 前北かおる

菜の花や乳白色の雨の降る
温室に曇らす眼鏡春寒し
ちかちかと蛍光灯や吊し雛
四段の鉢置き棚に桜草
まつはれる目白の声や梅の花
白梅や縦へ縦へと咲きふえて
影のなす魑魅魍魎が梅林に
自販機の赤鮮しき花菜かな
笑ふ山背負うて野たり都府楼址
永き日のベンチに胡座かきてあり
濁りなき水の溜まれる春田かな
菜の花や山国川も山抜けて
焼き頃の野の肌色や広がれる
一斉に野焼くやまなみハイウエイ
風中に野火くまりゆく男かな
一線に野焼の炎空濁す
ぬかるみに足を取られて犬ふぐり
ぷつと雲吹き出して山笑ふかな
連綿と雲の流れや春の空
うららかや翼撓めて風受くる
プランターはち切れてあり落椿
のどけしやひつじ留守なるひつじ小屋
豆這はす仕度の支柱春の鵙
青麦や今日の火の山煙吐き
火山灰をもて埋め立てしとふ揚雲雀
普賢岳痘痕だらけに笑ふかな
耕耘機畑の起伏帰りゆく
土手腹に穴まつ暗や大蜂巣
百万トンドックの後ろ山笑ふ
島抜けて水平線のうららかに
卒業の迫るひと日を甲板に
うとうとと島より戻る日永かな
春埃オリンピックの来るといふ
陽炎や草におほはれたる残土
春の人ゆりかもめより降り立ちて
歯を見せて笑へる女風光る
あたたかや広場の如き街の海
砲台の四方埋め立つ緑立つ
帆を棄てし帆柱立てり春の空
日おもてに三色菫植ゑ分けて
さるほどに花菜畑に目が慣れし
菜の花や腕を伸ばして自分撮る
腹這ひに構ふるカメラ風光る
春風やなほ転げたるフリスビー
砂利噛んで鳴きたる靴もうららかな
しつとりとサーモンピンク玉椿
図書館の飾り時計に春日さす
コーヒーをテイクアウトや春コート
ピロティーの向かうに見ゆる桜かな
ラケットの面に飛花を受けにけり

3 comments:

上田信治 さんのコメント...

菜の花や乳白色の雨の降る
四段の鉢置き棚に桜草
白梅や縦へ縦へと咲きふえて

なんで「乳白色」なんだろう、なんで「四段」なんだろう。「縦へ縦へ」とはなんだろう。

無造作に置かれた措辞が、しみじみと、ちょっとだけ謎で、楽しい。

プランターはち切れてあり落椿
しつとりとサーモンピンク玉椿
コーヒーをテイクアウトや春コート

こ、これは、いいんだろうか。稲畑廣太郎ラインの誕生なのだろうか??

前北かおる さんのコメント...

上田信治様

コメントありがとうございました。
「乳白色」は、自分でも気に入っています。
逆に、「コーヒーをテイクアウト」はまずかったなと思いました。

四羽 さんのコメント...

耕耘機畑の起伏帰りゆく
耕耘機のディーゼルエンジンはぶんぶんとエンジンらしい稼働音を奏で、畑の起伏に合わせてがたごとと行って帰る行程はさながらポリリズムである。

春埃オリンピックの来るといふ
そういえばオリンピックがくるといいますね。なんにもアンダーコントロールでない中でなにをやってるんでしょう。

ラケットの面に飛花を受けにけり
晩春の光景を動的にとらえた。スポーツの積極的な動性と、飛花の受動的な動性の出会い。

春に統一された季感で爽やかさを演出。等身大の視点が親しみやすさを生む。