26 猫鳴いて 利普苑るな
黒革の遺愛の寝椅子冬来る
しぐるるや紅き表紙の「遊女考」
一弾に矢となる犬や兎狩
枇杷咲くや砂に昨日の泥団子
猫鳴いて初夢のこと有耶無耶に
縦割れの爪宥めゐる二日かな
老犬と父の声あり枯木立
花札の蝶舞ひたがる睦月かな
蝋梅や棘の鈍りし鉄条網
狐鳴く集合写真中の吾
寒椿彼の世いよいよ賑へる
水仙やなべて海向く異人館
アボカドのみどりさみどり春立ちぬ
野良猫の嗅いで行きたる黄水仙
新月や終りかなしき猫の恋
ひらがなの連なる花壇はるのひる
太白を従へ春の月のぼる
日輪のゆつくり落ちぬ花菜畑
はこべらや温室に飼ふ元ひよこ
陶杯の柄の花鳥や春の宵
卵白の角のほどよき目借時
鬱金香土曜のカフェをひとりじめ
春風や原色躍るマリメッコ
木には木の歓びあらむしやぼん玉
末つ子の尻より濡るる汐干狩
天空に星座川辺に夏椿
萍の揺れては増えてゐたりけり
水無月や雫のやうな香水瓶
声上げて番犬めきぬ羽抜鶏
合歓咲くや伏目ゆかしき聖母像
石あれば左右に割るる蟻の列
サルビアや二人の記憶喰違ふ
咲かされてのちの無聊や水中花
心経の無の字の多き暑さかな
明暗を分くる一日や仏桑花
手花火の明りに昼と違ふ庭
真夜の湯やまなぶた持たぬ浮人形
生身魂欠伸を猫にうつしたる
かなかなや若者集ふ橋の下
踊り来て少女の爪の光りけり
葛の葉や途切れてゐたるけもの道
赤梨の殊に不器量なるを選る
足場より叫ぶ棟梁稲の秋
星流る無数の知らぬ人の上
秋天へ走者一掃せし一打
ライヴハウス前の黒板秋しぐれ
コスモスや家族写真のこれつきり
猫と坐す真紅のソファー雁渡る
母に貸しし本の戻らず天の川
秋霖やときをり熱き猫の息
2014-11-02
落選展2014_26 猫鳴いて 利普苑るな _テキスト
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2 comments:
枇杷咲くや砂に昨日の泥団子
砂と泥団子の、かなり意図的なコントラスト。それを「枇杷の咲くころの空気感」の中に置いてみせる。このデザイン感覚。
猫と坐す真紅のソファー雁渡る
は、よくデザインされた孤独感。
猫鳴いて初夢のこと有耶無耶に
今年こそは初夢を覚えていようと意気込んだが、寄ってきた猫をあやしているうちに忘れてしまう。猫と夢と有耶無耶の語感も面白い。
心経の無の字の多き暑さかな
夏の般若心経は涼しげとはいいにくい。なんだか特定の音が気になりだすと、暑苦しさもいや増しである。
かなかなや若者集ふ橋の下
若者は橋の下に集って何をしているのだろうか。楽器や演劇の練習をしていることもある。野宿者支援の場合もある。
人生や心情の機微を季語やものに託している。背景に物語を感じさせる。
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