2014-11-02

落選展2014_6 パズル 加藤御影_テキスト

6 パズル 加藤御影

ポケットの中も春服手を入れて
手のつなぎかたのいろいろ木の芽風
うぐひすや掌は表情を持ち
絵筆ふと道化師に似る春の昼
砂時計の汚れない砂鳥雲に
白木蓮咲いて悪児の華やげる
春の夜の中のインクの匂ひかな
消しゴムに鉛筆の穴さくら咲く
クリームのやうな寝癖や花の雨
花どきに測る睫毛の長さかな
チューリップ玩具のやうに汚れたる
しやぼん玉割れて景色のあふれけり
晩春や猫のかたちに猫の影
神の名を与へし猫や花は葉に
夏の蝶記憶はひつそりと消えて
瞬間を繋いで噴水のかたち
ともだちとはぐれてゐたる花氷
なぞなぞの中の兄弟氷水
ごちやまぜにされて昔や未草
表情で伝へ合ふなり夏野菜
茄子なりに私の顔を映しけり
ちきうにやさしいと書かれし団扇かな
函釣や舗装の下の樹の根つこ
雨音の雨水に似る昼寝かな
どの傘も人を宿して秋近づく
蜩や色鉛筆の白減らず
秋の日や釦それぞれ異国めき
撫子やもう通らなくなつた道
向き合はない道路標識秋の暮
秋蝶にすこし追ひかけられにけり
桃熟るや夢みるやうに斑をひろげ
眼が穴の動物パズル星月夜
星合や鬼ごつこまだ終はらない
いぢわるな顔つきで食ふ葡萄かな
降る木の実音の波紋のこと思ふ
パレットは絵の胎盤か黄葉置く
菌たる自由菌となりにけり
十一月散歩のやうに文字つづく
目離すと鳴りだしさうな冬日向
手袋の難破のやうに落ちてをり
粉々となり街となる枯葉かな
短日や絵本の絵には影の無く
端たなく舌を見せあふ花八ツ手
山茶花の散ればリズムの生まれけり
くちびるを叩いてをりぬ焼藷で
魚の眼煮凝の眼となりにけり
冬帝や珈琲は火の味を秘め
掛蒲団一面に名の知れぬ花
浮寝鳥眠り浸み出すことあらむ
もう人を忘れてゐたり都鳥

1 comments:

四羽 さんのコメント...

ともだちとはぐれてゐたる花氷
花氷はパーティなどのイベントに置かれるもので、やや非日常な空間を演出する。はぐれたのは花だろうか?人だろうか?人だかりの中にある孤独。

菌たる自由菌となりにけり
鳥や虫になる俳人はわりといるように思うが、菌になった人はまだいないのではないか。自由度で言えば、鳥よりも虫よりも菌は自由そうである。自然界の動植物は、やがて菌となる。

もう人を忘れてゐたり都鳥
12モンキーズという映画があった。廃墟と化した都市に舞うインコの群れ。やがて人がいなくなれば、高層ビル群は鳥たちの格好の住処となるだろう。

子どもや絵本など、若い人向けの道具立てで新鮮さを出している。それ自体は昨今特に珍しい手法ではないが、ところどころに不穏な句が混じり、ちょっとしたサスペンスが生まれる。