2014-11-02

落選展2014_9 凛凛 きしゆみこ _テキスト

9 凛凛 きしゆみこ

続編がすぐに始まる猫の恋
春の水研ぎし刃物の刃の中に
外の雨は聞こえぬふりを春灯
冴え返るあなたにできることなくて
だうありても眉に美しはだれ野は
春泥や楽器はどれも大荷物
とけぬままとけてゆくさま残る雪
蝶番四つ鳩三つ春館
喃語するくちびる春の眠りかな
天辺でなくも佳きこと囀れる
細面ばかりが目立ち卒業す
貸切のガーデン黄色のチューリップ
遠吠はむかしむかしに目借時
イギリスの国旗が触るる蔦若葉
ドラキュラの花嫁の如薔薇零す
形なきもの萬緑の海に乗る
江戸川に逃れた金魚の末裔
涼しさを問はばこたふる泡として
文開く外に蚊遣をたてしまま
語呂の佳き番地に下げる風鈴よ
風向きがかはるところの涼み舟
緩みをる纜夏の汐に曳く
どんづまりなる川に呉れやる海月
レース編して来し妻となるために
礼拝に書を置く人や避暑の星
生身魂ことりことりと心の臓
秋の寺始終路傍の人なれど
秋旱広くおぼへし波の色
手の中のあはくほどける秋の水
梟の手乗のカフェや星月夜
馬肥ゆる尾を梳くことの手入れから
月見草貝殻のやうとぢにけり
晒される芒の原の銀鼠に
蔀戸を立て虫聞きを外に内に
燭台はオルガンの先月の径
団栗のこつんと撥ねる目を醒ます
ほんたうのことは伏せたる狂ひ花
オリオンを映すことある川の凪
窓側が好き寒くても一人でも
冬木立逢ひたき人はあへぬ人
あのひとの指が毛糸を編んだのか
抱き締めてあげますなほも着ぶくれを
悴んでゆくを知らずに手を伸ばす
啼くときは月より光る鷹なりし
降りて来るふくら雀の散らばりぬ
笹鳴といふ囁きにささやける
人ひとりとほるをたどり雪の径
逆子なる雌牛の産まれ息白し
奥女中でありては無口襖引く
除夜の鐘知らずに眠る仔犬かな

1 コメント:

四羽 さんのコメント...

天辺でなくも佳きこと囀れる
天の果てのみならず、地にも水にも鳥は囀る。祝福はそこにもここにもあるのだ。

江戸川に逃れた金魚の末裔
金魚は人間によって徹底的に「改良」を施された生物のひとつだ。それは見た目のためであって、生存のためではない。江戸川に逃れた金魚の末裔は風流と共に、過酷な歴史を背負っている。

あのひとの指が毛糸を編んだのか
編み物をする指は地味ながら、いつの間にか複雑な編み目が積みあがってゆく。指に秘められた生命力が形になる。

映像性だけでなく、背景に物語を感じさせる句に魅力があると思う。