2015-06-14

【八田木枯の一句】夕虹をもみ消し女に逢ひにゆく 太田うさぎ

【八田木枯の一句】
夕虹をもみ消し女に逢ひにゆく

太田うさぎ


夕虹をもみ消し女に逢ひにゆく  八田木枯

「雷魚」7号に“汗馬楽鈔周辺”と題して掲載された18句のうちの1句。

『汗馬楽鈔』の刊行は昭和63年だが、納めたのは昭和22年からおよそ10年、八田木枯22歳から32歳の青年時代に書き上げた作品だ。それらを40年後に句集として上梓した理由は「溶闇のかなたに、青春の炎中であったおのが身のうちの澱りのようなものが遺り痼となってうずく」ことによるものだった。

この句もまた身の内の疼きを語っているように思う。

辛抱と呼ぶほどの時間を堪えるまでもなく、虹は自身を勝手に消しにかかるというのに、それすら待ち切れずに虹の終焉に手を貸そうとする焦燥。もみ消すのは逢いたさに付き纏う何がしかの後ろめたさでもあるのだろう。虐げるようにして夕空から光彩を追い払い、宵闇を引き寄せる。その奥に女の白い顔が浮かび上がる。

なれるものならば、こんな風に逢われる女にもなってみたいものである。



 

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