2015-11-01

2015角川俳句賞落選展 3 青本瑞季「鰭の匂ひ」テキスト

 3. 青本瑞季 「鰭の匂ひ」

三月のひかりに壜の傷あらは
卒業の椅子床下にをさまりぬ
雪解川遠くの橋の昏くあり
涅槃の日鸚鵡少女の声を出す
杖の人透かし野焼の炎かな
吹かれやすくて青柳の下の水
鳴く亀のあれは中国語の高さ
藤房は垂るるものなり足もまた
蝶の昼糖にざらつく壜の口
蛍烏賊青菜に目玉こぼしをり
惜春の傘襞深く閉ぢらるる
蝶の死のひらたく風に返らざる
とねりこのそよぎに夏の兆しけり
聖五月樹は回廊に囲まるる
言葉より疾し目高の逃げゆくは
麦秋や絵に神々の憎みあふ
青嵐くらがりに螺子捨てらるる
板の穴より見ゆる遠くの茂りをり
遠く鳴く雉鳩梅雨の夜の冷えて
鰭の匂ひか南風蔵の中へ入る
夏シャツに見ゆる背骨のありどころ
水かげろふ日傘のうちを照らしけり
涼しさや龍をふちどる金ひとすぢ
炎昼のふと肉球の話かな
耳栓のうちに大暑の機械音
炎天をかりかりと蝶登りをり
空蝉のかほ金色の毛をはやす
劇場の裏の木屑や小鳥来る
人波に失ふ愛の羽根の先
秋雨や人形の糸垂れてをり
きちかうの高さを煙とほりけり
ちろちろと煮炊きの火あり柿を食ふ
十月の袋を吊るす窓辺かな
玻璃すこしみづに汚れて秋の声
藻は水の流るるかたち雁渡し
白菊に喉の渇きを思ひ出す
目薬ののち秋園の晴れてをり
舞ひ上がる羽に枯野の日が余る
枇杷の花牛乳揺らしつつ帰る
雨後の川なり水鳥を押し流す
冬蜂の死よ天井の高くあり
ひとの手に墨匂ひたり牡蠣の旬
枯るる中如雨露こぼさぬやうにゆく
水鳥のこはばりをもて目覚めけり
霙るるにきいと開ける小箱かな
棘ほどの音雪の日の蛇口より
ストーブの近く雲母の棚の冷え
毛糸玉とはもう言へぬ平たさよ
とほざかる踝のあり骨牌の座
林開けて向かひあはずに椅子がある




■青本瑞季 あおもと・みずき
1996年広島県生まれ。「里」「群青」同人。

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