2015-11-01

2015角川俳句賞落選展 7 大塚 凱「鳥を描く」テキスト

 7. 大塚 凱 「鳥を描く」

太陽はもはや熟れごろ初詣
冬晴の赤い実があり怪しい実
冬帽のてつぺんどうしても余る
タクシーの問はず語りもしぐれをり
母が拭く成人の日の鏡かな
新宿は轍残さず寒夕焼
その中のまだ臘梅に届かぬ子
残雪の厚みの辞書を父より享く
寝返れば枕つめたき初音かな
受験子が駅のおほきな風に立つ
七曜のはじめの雨を草青む
いもうとをのどかな水瓶と思ふ
春服を褒めねばならぬほどの黙
鳥一羽容れず全きさくらかな
かげろへる動物園へ象嫁ぐ
パンジーも選挙事務所も消えてゐる
火にひらく貝のふしぎを春の暮
頭痛薬きらせば落花とめどなし
若葉から鳥が生まれてきて白い
母の日の父と来てゐる楡のかげ
不平等なからだと紺の水着かな
飛込の音が吸はれて樹のみどり
カーラジオ止めて夏野にしづかな愛
何の木と知らねど夕焼に似合ふ
まくなぎはさびしき人をよすがとす
冷蔵庫ひらき渚に立つこころ
水呑んで丑三つの蚊を赦すまじ
眼は次の草を見てゐて草むしり
蟻の巣を肺の昏さと思ひけり
ナイターの勝ち歌遠くコップ捨つ
星涼し飢ゑかすかなる夜行バス
日輪は雲をこぼれて稲の花
水に影おとさぬ高さ鬼やんま
骨しやぶつて二百十日の指ひかる
野分あと空の深さを怖れけり
割箸にくれなゐ残る子規忌かな
鶏頭の襞の深きを蟻が這ふ
空腹の夜は金木犀に病む
赤い羽根いつしか失せて街は雨
折紙の金照り返す夜長の頰
朝寒や車輪に鉄路磨かれて
風邪の子が曇る硝子に鳥を描く
おでん屋のテレビの中を兵歩む
塩胡椒ほどのしあはせポインセチア
とある灯に犬売れ残る聖夜かな
小雨ならコートに光る逢ひにゆかう
凍蝶の呼吸が耳鳴りに変はる
古暦つまり風葬ではないか
しんしんと大つごもりの油濾す
夢の島除夜のおほきな闇が来る







■大塚 凱 おおつか・がい
1995年生まれ。「群青」同人。第七回石田波郷俳句大会新人賞受賞。

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