1. 青木ともじ 「水のあを」
スティックシュガー音たてて出る立夏かな
青葉風ベンチはひとつづつあけて
母の日の待ち針をやや深く刺し
店先の鸚鵡で遊ぶ若葉冷
風にほぐるる鹿の子の耳の先
ペンギン涼し三日月型の水槽に
花火まで届かぬ声をあげにけり
夏の月の温度に耳が濡れてゐる
繁華街の色をしてをり夜の金魚
ハンカチを返すとき手をすこし高く
特急にホームの余る雁渡し
重力のかすかにありぬ花野道
紅葉かつ散るやあの山まで故郷
花の野の果て未踏とも既踏とも
打たせ湯にちさき緩急ある白露
非常灯あをあをとして月の雨
集金の人と小鳥の話など
秋の蚊をしばし相談して打ちぬ
毬栗のよい持ち方を教はりぬ
糸車に糸なき昏さ水引草
犬ゐれば声をかけけり黄落期
冬めきて本の挿絵の蓄音器
漕ぎ出しは獣の目してスキーヤー
雪の野を光源のごと歩みけり
星空に深いところやイオマンテ
三等客室に窓ひとつなる湯ざめかな
旅の夢を見けり鯨を名づけけり
あづかりし子のよく笑ふ炬燵かな
地球儀は高いところへ煤払
使ひ捨てマスク再び使ひけり
中州から鴨流れゐる眠さかな
亡国の名の酒場ある風邪心地
背もたれに余るコートの長さかな
高橋も髙橋もゐて賀状書く
人日やただまつすぐにバス通り
迂回路の案外とほし山桜
みな同じ岩を踏みゆく磯遊び
雛段の骨組みひややかに崩す
風光りチーズケーキは砂丘めく
啓蟄の野外観客席のあと
パンケーキの断面ましろ涅槃西風
米櫃へ米満たしゆく彼岸かな
飼ひ猫か野良猫か朧を曳いて
喰ふ舌の先まで恋の猫である
性欲とは藤のかすかな芯のやう
踏めば殺せるほどのがうなを愛しけり
蝶とほく置いて水面にとどきさう
耕や湖(うみ)より引きし水のあを
田楽を串の出でゆく力かな
粉をとかすだけのスープや春の星
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■青木ともじ あおき・ともじ
1994年千葉県生まれ。俳句甲子園13,14回出場。
現在東京大学に在学。「群青」所属。
2015-11-01
2015角川俳句賞落選展 1 青木ともじ「水のあを」テキスト
Posted by wh at 0:57
Labels: 2015角川俳句賞落選展, 青木ともじ, 落選展
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