2015-11-01

2015角川俳句賞落選展 6 上田信治 「塀に載る」テキスト

6. 上田信治 「塀に載る」

さんらんと冬雲のあり午後の塀
神の留守たて掛けてある濡れた板
バス冬日明るきうしろあたまかな
寒晴のかばんの蓋の磁石鳴る
水仙花空家の芝のまんなかに
お団子は串に粘つて道に雪
ゐのししの脂身よぢれ星無き夜
公園を見おろす家の干蒲団
自動車はシンメトリーで冬の海
ひばりの空のびる手足のつめたさよ
日のひらめく海の若布を食べにけり
二月の雨ピンクのジャージ着て女は
夜の梅テレビのついてゐるらしく
ポケットに手をふくらます朧かな
可愛くない子供で春の夕焼で
空はいつもの白い空から花の雨
さくらさくら顎にマスクをかけ男は
目の隅まで桜を入れてガムを嚙む
白きもの食べれば独活や雨の香の
夏鴉まうへに跳んで塀に載る
一人は立ち一人はしやがみ梅雨の浜
著莪の花つめたいペットボトルかな
天ぷらのころもとろとろと溶く薄暑
まくなぎや日の沈みても川のある
食べをへて雨聴いてゐる網戸かな
虹の出る町に一人で住んでゐる
わが立てば茄子の畑にわるい風
牛乳と煙草でなほす夏の風邪
ねぢ花を見てゐる顔や空の雲
炎昼に半月がありずつとある
雨の祭の金魚のやうなこどもたち
電池二つかちりと小さき天道虫
ソーダ水とほくの犬と思ふなり
夏の月甘みをさがしては舌は
紙で口拭へば午後のダリアかな
冷房や文字のごとくに紅生姜
一日の終りの風のとんぼかな
自転車の錆びたベルから秋の蝶
秋の光むかしカンナの咲いてゐて
吾亦紅ずいぶんとほくまでゆれる
団地より雲白ければ秋の空
窓をあけて秋日の壁にさはりけり
芋虫のまはりを山の日が透きつ
芋虫がふたつゐて芋虫のころ
露けしや仔羊うたふやうに啼き
鉄柵を傘に鳴らせよからすうり
ワイパー二本に軍手引つかけ雲の秋
たてものに秋の公孫樹の影はんぶん
昼月のうつろそらいろ鯔跳ねる
藤の実のぞろりと風に吹かれけり



■上田信治 うえだ・しんじ

1961年生れ。「里」「ku+」所属。共著『超新撰21』(2010)『虚子に学ぶ俳句365日』(2011)共編『俳コレ』(2012)ほか。

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