23. 前北かおる 「光れるもの」
立春の水を掬つて顔に
球場の穹窿鈍く霞みけり
神さぶる椿の奥に初音かな
白樺の繁からざれば雪残る
雨降れば白が俄に梅の園
芽柳にメタセコイヤに朝日さす
草はらに残れる遊具蕨生ふ
花冷の学生服の背中かな
春雨や光れるものの染まりゆく
行く雁やぐづぐづ曇りつづきなる
苗代の百畳敷のみどりかな
菫草タクシー捨てて下り出す
白藤や谷戸田に水の行き渡り
なつかしく赤味さしけり濃山吹
講堂に全校生徒更衣
卯の花や茶器掛物を賞でてきし
イーゼルを倒して風や立葵
避雷舎に入れば真昼のほととぎす
黄菖蒲の吹きつさらしにありにけり
満載の早苗ゆらゆら田を植ゑむ
五月雨の甘く匂へる板廊下
吊り橋をとほり抜けたる螢かな
めいめいの腰に蚊遣火吊りさげて
掛茶屋に昼酒過ごす蓮かな
山の雨降りて明るき泉かな
立秋の候と書きさし窓の外を
墨吸はす万年筆や星祭
小屋掛けに畠も少し荻の風
白き椅子白きテーブル女郎花
その背中芒の花を挿してをる
風なかに小叢萩置く芝生かな
神の鹿潮満ちてはや引きそむる
露の径日の山荘を仰ぎけり
奥山に金湯館や霧を積む
牛乳を飲んで朝顔数へけり
月の出や幕府すたれて八幡神
虫の音や波しづかなる奥の院
晴るる日の少なくなりて野紺菊
夕紅葉家族を置いてきたりけり
初冬の笑つてゐない絵の子ども
片時雨出雲の国のなほ遠く
霜柱係累にまた一祠づつ
熊の湯は谷の深雪に五六軒
枯蘆や自転車の鍵拾うたる
先生に呼び止められて川千鳥
日輪の赤くのぼれる凍土かな
水鳥やジムノペディーを聴きながら
夜神楽のなほ序の口の力足
五本づつ炉火に挿し足す串のもの
ひと筋にひとの流れや除夜の鐘
●
■前北かおる まえきた・かおる
1978年島根県生まれ。慶大俳句、「惜春」を経て、「夏潮」創刊に参加する。
第1回黒潮賞受賞。句集『ラフマニノフ』。
ブログ http:// maekita kaoru.b log100. fc2.com /
立春の水を掬つて顔に
球場の穹窿鈍く霞みけり
神さぶる椿の奥に初音かな
白樺の繁からざれば雪残る
雨降れば白が俄に梅の園
芽柳にメタセコイヤに朝日さす
草はらに残れる遊具蕨生ふ
花冷の学生服の背中かな
春雨や光れるものの染まりゆく
行く雁やぐづぐづ曇りつづきなる
苗代の百畳敷のみどりかな
菫草タクシー捨てて下り出す
白藤や谷戸田に水の行き渡り
なつかしく赤味さしけり濃山吹
講堂に全校生徒更衣
卯の花や茶器掛物を賞でてきし
イーゼルを倒して風や立葵
避雷舎に入れば真昼のほととぎす
黄菖蒲の吹きつさらしにありにけり
満載の早苗ゆらゆら田を植ゑむ
五月雨の甘く匂へる板廊下
吊り橋をとほり抜けたる螢かな
めいめいの腰に蚊遣火吊りさげて
掛茶屋に昼酒過ごす蓮かな
山の雨降りて明るき泉かな
立秋の候と書きさし窓の外を
墨吸はす万年筆や星祭
小屋掛けに畠も少し荻の風
白き椅子白きテーブル女郎花
その背中芒の花を挿してをる
風なかに小叢萩置く芝生かな
神の鹿潮満ちてはや引きそむる
露の径日の山荘を仰ぎけり
奥山に金湯館や霧を積む
牛乳を飲んで朝顔数へけり
月の出や幕府すたれて八幡神
虫の音や波しづかなる奥の院
晴るる日の少なくなりて野紺菊
夕紅葉家族を置いてきたりけり
初冬の笑つてゐない絵の子ども
片時雨出雲の国のなほ遠く
霜柱係累にまた一祠づつ
熊の湯は谷の深雪に五六軒
枯蘆や自転車の鍵拾うたる
先生に呼び止められて川千鳥
日輪の赤くのぼれる凍土かな
水鳥やジムノペディーを聴きながら
夜神楽のなほ序の口の力足
五本づつ炉火に挿し足す串のもの
ひと筋にひとの流れや除夜の鐘
●
■前北かおる まえきた・かおる
1978年島根県生まれ。慶大俳句、「惜春」を経て、「夏潮」創刊に参加する。
第1回黒潮賞受賞。句集『ラフマニノフ』。
ブログ http://
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