【真説温泉あんま芸者】
ふりがなの効用
西原天気
俳句においてはルビ(ふりがな)は推奨されません。なるべく振らないほうがいいとされます。
一般書籍(小説などの文芸も含め)では難読漢字に振られるようなケースでも、俳句ではルビナシのケースは多い。膕なんで読めませんて。玫瑰なんて読めませんて〔*1〕。
一方、「この漢字/熟語、ふつうこうは読まないけど、こう読んでね」といった変則的なルビも、俳句には少なくない。音(ルビ)では伝わらない意味を表記(漢字)で伝えるという機能を持たせている。この手のルビ、個人的には好きではなく、抵抗感があります。「女」に「ひと」と振る演歌処理はさすがに見かけないけれど、「亡母」に「はは」のルビは見かける。これはかんべんしてほしいクチ。
私自身は俳句のルビには消極的・否定的。
ところが、『静かな場所』第16号(2016年3月)に、おもしろい使い方を見つけました。
元町高架通商店街(モトコー)を端から端へ梅雨湿り 和田 悠
「元町高架通商店街」という正式名称に「モトコー」という通称がルビとして振られている。「モトコー」とだけ表記すると、五七五にはなるが、地元民以外には何のことわかりにい。それでこのルビ付き表記になったのでしょう。
私が「おもしろい」と思った理由は、ふたつ。
まず、見た目。漢字が8字並んで、高架下に小さな店が立ち並ぶ様子を連想させます。
この場所は十代の頃から何度か足を運んだことがあります(当時は「モトコー」などという読み方はなく「高架下」よ呼ばれていた)。狭くて猥雑。パッタモンを含め怪しいモノ、怪しい店がひしめいていた。いまもそれほど変わらないだろうと思います。
次に、これはやや無理筋ですが、どう声にするかが読者に任されていること。
もちろん「モトコー」と4音で読んでほしいからルビになっているのでしょうが、上句の字余りを気にしない私は、「もとまちこうかどおりしょうてんがいを/はしからはしへ/つゆじめり」と「17/7/5」と読んじゃうこともする。
音数を読者が選べる。
作者の意図にそれはないかもしれません(まず、ない)が、わがままな読者としては、この句のルビ処理を、そう解釈させてもらうことにしました。
その流れで、オソマツさまの一句。
時間機(タイムマシーン)の中から水着美女金髪 10key
余談ですが、下の字余りを許容する読者タイプです、私は。
〔*1〕難読漢字の場合、方策として次の3つが考えられる。
1 難読のまま、ルビを振らない
2 ルビを振る
3 ひらがなで表記する
「2」が親切だけれど、膕などは親字1字の横に4字のひらがなが並び、見た目がよろしくない。
ちなみに私はほぼ「3」を選ぶ。
モトコーをめっちゃ上から目線で。 |
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