2016-09-11

【週俳8月の俳句を読む】「お星さま。」という彼女の声の響き 岡田由季

【週俳8月の俳句を読む】
「お星さま。」という彼女の声の響き

岡田由季


もの言はぬ子のひとことに「水鶏です」  加田由美

学生時代、アルバイトで小学生の家庭教師をしたことがある。一人目の生徒は、まだ3年生ということもあり、集中して机に向かわせるのにひと苦労。二人目に担当した5年生の子は、対照的に、驚くほどきちんとしていた。私が行く時間には筆記具など全て準備を整え、挨拶も申し分なかった。それもそのはず、彼女は劇団に入っていたから、そういうことがすっかり身についていたのだと思う。誰でも知っているテレビCMのコーラスに参加するなど、時折仕事も入っていた。そんな彼女に、あるとき声優の仕事がきた。全国公開のアニメ映画、ヒロインの妹分で、重要な役だという。私としても誇らしく思い、いそいそとその映画を見に行った。見ると確かに準主役で、登場シーンも多い。ただ……口を聞けないのか、ただ無口なのか、ほぼ喋らない役だったのだ。2時間ほどの映画のなかで、台詞はたった二つだけ。その一つ「お星さま。」という彼女の声の響きは、映画のストーリーをすっかり忘れてしまった今でもまだ私の脳裡に残っている。

この句では「水鶏です」という唐突な台詞が、物言わぬ子の存在感を際立たせている。水鶏は臆病な鳥だという。そのひっそりとしたありようと、それを包む水のイメージが、大人びた子供の様子と重なる。


あいさすと色鳥うすびへるしんき  田島健一

いることのまびわりかなし鬼やんま  同

ありそうで実在しない言葉を用いつつ、つづられた連作。けれど意味が伝わることを拒否しているわけではなく、むしろ伝えることに積極的な作品なのではないかと思う。

季語の部分以外にも「へるしんき」「かなし」といった、喚起力のある、あるいはストレートな言葉もそのまま用いられており、また「あいさす」「まびわり」等、一見意味のわからない言葉も、似通った意味のある言葉を連想するため、一定のイメージは伝わる。北欧の薄暗い空や独特の色彩であったり、鬼やんまの生の哀しみであったり、そういうことを真正面からそのまま詠まれると、手垢のついた内容として、読み手はすんなりとは受け取れないかもしれない。より伝わりやすくするためのひとつの試みして、このような言葉のずらしが行われているように感じた。


九月の水着深田恭子でもなくて  岡野泰輔

深田恭子という女優は、見るたびに印象が違って見える。久しぶりにCMなどで見ると、「今の、深田恭子だよね?」と家族に確認してしまうほどだ。女優としては、それは正しい姿なのかもしれない。この句の水着の女性、九月でもあるし「焦げる」という連作中にあるので、かなり日焼してるのだろうか。深田恭子と見まがうのだから、端正な顔立ちとスタイルに違いない。残暑の光の中で強い印象を与えながら、目を離した途端どんな顔立ちだったか忘れてしまうような、不思議な存在感の女性なのである。




第485号2016年8月7日
進藤剛至 清水 10句 ≫読む
第486号 2016年8月14日
加田由美 引き潮 10句 ≫読む
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