2016-11-13

【週俳7月の俳句を読む】 いまさら7月を 中山奈々

【週俳7月の俳句を読む】
いまさら7月を

中山奈々

V6の岡田くんやKinKi Kidsの剛くんの切り抜きを見せてもいつも同じ髪型ーちょっとおしゃれな坊ちゃん刈りーにされた黒田散髪店。団地というには高さが足りない、密閉空間も足りない府営住宅の、友人たちの気まぐれさ。

自分の記憶か、他人の記憶か、もうわからないままにぐるんぐるんと頭が回っていた。酔っていたのかもしれない。

そのなかで、母さんと参加した高野山のバスツアーがありありと浮かんできた。小3。スーパーの懸賞で当選したと納得できるほど、参加者の年齢層の高さ。

家族で遊びにいく先がほぼ寺院だったから、寺にはなんの抵抗もない。しかしこの細長い箱に、何故知らないひとたちとこんなにも詰められなければならないのか。何故このひとたちは喋ることをやめないのか。何故車内上映ビデオが伊丹十三の「あげまん」なのか。

問いたかった。高野山で、道案内してくれている高僧らしきおじいさんに。問いたかった。ハイジがもみの木ならわたしはこの杉林に。いやむしろ、

青桐と話してくるといふ子ども         村田篠

高野山巡りの帰り、バスはある場所に停まる。サービスエリアではない。田舎道に急に現れた倉庫。なかには毛皮。

幾万の毛皮が雪崩れ込んで来る        竹井紫乙

化学繊維でない毛皮を見るのははじめてだった。触れてみる。もふもふしているくせに温もりが、ない。顔があるくせに。

毛皮の空洞からもれる細い目           竹井紫乙

周りを見渡せば、高野山のときよりきゃあきゃあいう参加者。お地蔵さんもこれを着ればきゃあきゃあ言って貰えるんじゃないか。赤いてろてろの前掛けではなく。
母さんが、外に出ようという。臭いがダメだという。空気がない。空気がない。吐きそう。

埋没は毛皮に任せ失神す       竹井紫乙

母さんは元からの身体の弱さに加え、早く始まってしまった更年期のせいで、自分でもどうしたらいいかわからなくなっていたのだ。それを小3が解決できるわけではもなく、ただ横にちょこんと座るしかなかった。

夕焼けにふいに田中を呼んでしまう              福田若之
それでも晩夏なおも田中の名を叫んだ

あのとき、田中を呼べたら。母さんを、わたしを、救えたかもしれない。

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