テキスト版 2009落選展 藤 幹子 幼い大人

幼い大人　　　藤 幹子

朝礼に倒れポピーの花となる
脳髄に芯ある日かな茗荷の子
薄暑光病院ひどく混んでゐます
濃紫陽花コーヒーミルをひとしきり
サキソフォン途切れず泉にほひけり
麻シャツをはだけて赤き男かな
しやぶしやぶの刑にしてやる油照り
打たせ湯や銀歯の中の夏灯し
シミーズのわれとわが身とかき氷
夏掛けの話流れてしまふ朝
コーヒーゼリー海より人は生まれ
揚羽ほど揺れシーカヤック沖へ沖へ
ノンステップバスノンストップ菊日和
孕みたる人先に行く花カンナ
貝割菜すくすく会議紛糾す
鬼灯の穴から黄金バット来る
芋虫の白くうねれり母もまた
大白磁そつと吸ひとる桃の汁
吾と夫の下着重ねり秋灯し
ミルク冷ゆこの世の終る速さにて
行く秋や吐くためにある洗面器
人形の胸よりやはき蜻蛉かな
分銅を置くさやうなら秋の蝶
すがれ虫天体望遠鏡に闇
なみ縫ひのほつほつ途切れして初冬
寒肥に赤き手袋混じりたる
呪はれし血統と聞く馬橇かな
牛鍋の牛の領土を広げけり
大根をおろせ活断層を見よ
動くもの皆喰はれけり置き炬燵
乳呑み児も赤く吼えけり生身剥
四日かな箸にまつろふ葉の野菜
浮き寝鳥単三電池あつたなら
くぢら見る夢方舟を喰らふ夢
冬満月猿がフィルムを巻き戻す
綿虫はペンギンにはたかれてゐる
爪黒く鋭きコアラ風花す
あめりかにはあめりか語のふくろふ
あしくびのどこかがかゆい梅の花
発明家引き鶴見れば鶴になり
たんぽぽやカチューシャの子が委員長
卒業いつぱいいつぱいわら半紙
きりきりとソナタを書いてをり春陰
廃屋は卯波を待つて眠りけり
ヘリウムの声の先生四月馬鹿
縮みたるふぐり可愛ゆし風信子
花嫁さんれんげの空を飛んでゆく
カスタードクリーム味の春蚕かな
百人のリコーダーから柳の芽
カチューシャをぐいと押し上ぐ燕来る

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