2010-01-24

商店街放浪記27 大阪九条 ナインモール商店街、キララ九条商店街 〔後篇〕 小池康生

商店街放浪記27
大阪九条 ナインモール商店街、キララ九条商店街 〔後篇〕

小池康生


九条を三回に渡って書くとは思ってはいなかった。
栄華の歴史と現在の息吹があるから書きつくせないのだろう。
九条はまだまだ深い。

基(もとい)。
草鍋の<小川下(こかげ)>で飲んだのだ。
草をたらふく食べたのだ。
ビールを飲み、日本酒も飲み、日本酒をたくさん飲むと主は喜び、サービスのアテを持ってきてくれた。
「たくさん、呑んでいただいて・・・」

なにか宿場町に来たような気分。
店の外観、内装のせいでもあるが、なんとも趣があった。

店を出ると、小雨が本降りになりかけていた。
「もう一軒行きましょうか」
誰が言い出したか、商店街を九条新道の交差点に向かう。

ペーパーさんの知った店だ。
わたしが夕方面白い話を聞かせてもらったたこ焼き店のすぐ先だった。
『BAR Studio』。九条とは思えぬハイカラなBAR。
昼間は写真スタジオで、夜はBARになるらしい。どおりで天井が高く、壁には写真がたくさんある。わたしたちはまた呑んだ。
横に座る新しい参加者の顔を時折り見ながら、
『この人にニックネームをつけたい・・・』
と考えながらちびりちびり、ごくりごくりとグラスを傾けた。
後日、仲間内の“公募”で、<九条DX>というニックネームがつくとは、この時は知る由もなかった。

そんな一日があったのだ。
わたしには悔いがあった。
『今日もまた、白雪温酒場に行けなかった・・・』

きっと、気持ちが足りないのだ。
予約する店でもないし、ふらりと行ってもいつも満席。
それでも気合い一閃、いまだと思う時に行けばいい。
白雪温酒場に行かねば、この九条シリーズが終わらない。

後日談である。
2009年12月29日。
昼間仕事の打ち合わせを二件済ませ、夕暮れ早くから大阪ビジネスパークで一杯二杯飲んでいた。

その時だ。
『今日あたり・・・』
と閃き、大先輩との席を二杯で失礼して、九条に向かった。
仕事納めの済んでいるところも多く、店が開いている可能性も薄いのかもしれないが、気合いである。
大阪城の近く大阪の中心地から、西の端に向かった。

果たして、白雪音酒場は開いていた。
客は、ぱらぱら・・・。
こんなに嬉しかったことは幾久しい。

ほくそ笑みたいところだが、急遽苦虫を飼いながら入店する。
席はどこにするか。遠慮することはない。奥だ、奥。

カウンターのみの席。
奥から二人目、まな板の前に座る。
私の左右では50がらみの男がひとりで飲んでいる。

入口近くに、若い男性二人。
少し離れて、若い男二人と女のグル―プ。
真ん中あたりに60後半から70の男。

きょろきょろせずに店を見渡す。
いかにも居酒屋である。
くすんだ柱や天井。埃やヤニを探せばいくらでもあるが、不潔感がない。

聖域だと思う。
灰皿はなく、タバコは床に捨てられる。
次々と海鼠が注文され、わたしの目の前のまな板で海鼠が切られていく。
俎板は使わぬ時も、常にちょろちょろ水が流されている。
俎板を使う前後には、黄ばんだ布巾で拭かれるのだが、不思議といやではない。
最初は『おやっ?』と思った布巾だが、だんだん清潔に見える。
ご主人がひとりで切り盛りしている。カウンターのなかで、炭を熾し焼き鳥の準備をし、ビールを入れ、カウンターの下のどこかから湯豆腐をだし、酒を燗し、テキパキと働く。

客に媚びず合わせず、マイペース。呼吸を乱すやつには何か言いそうな気配が漂う。

きずしを注文し、熱燗を注文し、分厚い錫のチロルで出てくる酒に感激し、湯豆腐を注文し、茶碗蒸しを注文し、また熱燗を注文し、計1480円だったか。80円は違うかもしれないが、1400円台であることは間違いがない。

適度の緊張感、適度の孤独、適度に昭和を懐かしみ、いい気分であった。

背伸びしたい男は、気合い一閃、白雪温酒場を訪ねてみるといい。

数へ日に電話しかけて故人なり 康生

                             (以上)

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