〔週俳12月の俳句を読む〕
ユーレカ!
ひらのこぼ
母親が俳句をやっていて、休みの日など自宅で結社の俳人が集って句会などすることがありました。当時学生だった私は、これがもう嫌で嫌でたまりませんでした。「いい大人が昼日中にごろごろ集ってなにしてるんだ。こんなことじゃ日本もお終いだ。もっと生産的なことをしろよ」なんて思いながら挨拶もせずぷいと出掛けたりしていました。
そんな私も五十歳手前で俳句にはまってしまいましたが、そのときの気分がまだ少し残っています。俳人は総じてあかんたれです。私もご多分に洩れずあかんたれです。でもそのあかんたれを受け入れてくれるのが俳句です。まあそれでいいじゃないかとようやく思うようになりました。
皓皓とミスタードーナツ除夜の雪 原 雅子
ペーター佐藤の描くミスタードーナツのポスターとか思い浮かべます。六十年代の古き良きアメリカ。で、日本は大晦日の夜。取り合わせが新鮮です。
菊膾食べて賑やかなるひとり 渋川京子
接待の営業マンでしょうか。それとも一人酒の客が板前相手に声高に話しているシーンかもしれません。いずれにしても景の再現性がしっかりした句。
ゆつくりと電車の過ぎる冬紅葉 阪西敦子
不思議な句です。電車に乗っていて窓の景色を眺めているところでしょうか。それとも冬紅葉を眺めていたらその前を路面電車がゆったりと過っていったのかもしれません。電車は幻覚だったということもあります。人々は電車で過ぎて行く。で、冬紅葉はこれから散るばかり―。妙に魅かれる句です。
どうも分らないなあと思っていましたが、ふっと謎が解けました。そうか!これは鞍馬へ向かう叡山電鉄なのでした。紅葉のトンネルへ来たところで電車がスピードを落として進んで行きます。「ユーレカ!」です。気分がすっきりしました。あるいは嵐山のトロッコ列車か箱根登山鉄道なのかもしれません。ともかく地名を特定しないで「ゆつくり」だけをキーワードにしたことで幅広い読者がアハ体験できるという仕掛けでした。
空腹や冬空に舞ふ葉一枚 小野あらた
空腹なときは感覚が鋭くなります。なぜかというとなにをする気力もないからでしょう。そんなときに目に止まったシーン。作者の目で眺めた冬空を読み手も共有できます。
しほたれておでんの湯気の当るまま 太田うさぎ
「へい、おまち!」と出された盛り合わせのおでん皿。でもしょんぼりと箸もつけないでいる作者。なんだかおでんのちくわやはんぺんもしおたれて見えてきます。
●
0 comments:
コメントを投稿