〔超新撰21を読む〕
夢想と現実
小沢麻結の一句……野口 裕
春の雲ぬうつとネアンデルタール人 小沢麻結
なんとなく、はるか昔に国語の教科書で読んだ『更級日記』の作者を連想した。『更級日記』の作者は、源氏物語にあこがれる夢想家であり、配偶者に対する愚痴を延々と連ねる現実家でもある。
句が、源氏物語を引用したり、愚痴を延々と連ねているわけではないが、作者の位置は常に温存されていて、視線を遠くに伸ばせば夢想の世界が広がるか、現実の世界がこちらにやってこようとする。前者の例は、
月涼しピーターパンの影よぎり
呼吸する光となりて螢飛ぶ
などに代表されるだろうし、後者は
吊革も手摺も苦手冴返る
北風を入れ病室の掃除時間
を数えることができるだろう。
この両者の混合が、小沢麻結の世界を作り上げているように見える。夢想家が現実をいかに生き抜くか。多かれ少なかれ夢想家にならざるを得ず、夢想を抱かなければ生き抜けない現実を抱える現代人にとって切実な問題ではある。ネアンデルタール人は、ちょっと恐ろしげだが、どこかそうした現実に対する処方箋を与えてくれる存在として、上空に浮かんでいる。
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2012-01-15
〔超新撰21を読む〕小沢麻結の一句 野口 裕
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