〔週俳12月の俳句を読む〕
言葉の錘
奥坂まや
電飾寒し人を待つ人ばかり 原 雅子
クリスマスが近づいてくると、夜の街がイルミネーションで輝き出す。近頃は十一月の初め頃からチカチカと始まってしまう。おまけに、息苦しいまでに光の密度が濃い。
その濃密な電飾空間で、人待ち顔の男女がたくさん佇んでいる。待っている、というオーラが幾重にも垂れ込めて、ますます窒息しそうな雰囲気。街自体も、滅びを待っているのかもしれない。遠くない消滅を予感し、精一杯煌びやかに装っているのかもしれない。
枯原の中の灯台ならば抱く 高勢祥子
枯野を独りで歩いていると、どこまで歩いても果てが無いような気持になる。世界のなかで一人ぼっちになってしまって、無限空間をさまよっている悪夢。夢と分かっても、どうしても出られない。
そんな時に、不意に灯台が見えてきたなら、きっと走り出す。走りよって、感極まって抱擁する。サハラ砂漠に不時着した操縦士が出逢った、星の王子様のような灯台。
顔ひとつ重し重しと野菊摘む 渋川京子
人間は言葉を獲得してしまった。でも言葉って、存在しているものとの距離のことだから、言葉が増えてゆけばゆくほど、人間はありとあらゆるものから離れてゆく。
野菊に較べて、なんて私は重いんだろう。顔の裏側には言葉の錘がいっぱい詰まって、いまにも前につんのめりそう。せめて野菊の軽やかさを自分のものにしたいと思って、摘む。そして野菊を殺して、ますます重くなってゆく。
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