2012-04-08

投稿作品テキスト 渕上信子 長き夜の

長き夜の 渕上信子

蜉蝣の群のちらちらここはどこ
桔梗のぽッと開きし世界地図
夜這星匕首呑んでひた走り
野路の秋先をすたすた蕪村かも
毒茸を召されゾンビとなられけり
送火にしてはぼうぼう燃えすぎる
残る蝉守護霊憑きてしぶとしよ
ねこじやらしむきそろへてもそろへても
文月の文字化けちやつたラブレター
竜潜む淵さわがせておほげんくわ
乃木祭坂を降りくる庇髪
木乃伊そろそろ薄目あくれば三日の月
慰めの言葉のかはり梨を剥く
飯盛の母に似てゐる明河かな
柘榴割れ雌鶏太り鬱兆す
名月や飛ぶは能天気なイカロス
南蛮煙管ずつとさうしてゐるつもり
耳遠きわれに蚯蚓の鳴きくるる
野紺菊そちらの戦争いかがです
流寓のはての墓なる濃竜胆
仏手柑やここも誰かの故郷ならむ
懇ろにお詫びしまして合歓は実に
後の月いよいよ白し嘘つぽし
おかまこほろぎ鳴く世界マイノリティー会議
塔高し蟷螂が背に乗れといふ
野山いま猩猩遊ぶ錦かな
宵寒の羽織ればどれも子供服
霧襖たづねたきこと忘れけり
かまつかや厠の鍵はみな壊れ
長き夜の夢の入籠のマトリョーシカ


1 comments:

fuchi さんのコメント...

連作「長き夜の」を投句させていただきました渕上信子ともうします。
「仏手柑や・・・」には、
  ここもまた誰かの故郷氷水  神野紗希
という類想句がありました。神野紗希さまには深くお詫びもうしあげ、以下のように変更させ

ていただきます。
 仏手柑の指(および)ちゆうちゆうたこかいな
たいへん申し訳ありませんでした。