【週俳2月の俳句を読む】
切実さと白いご飯と
対中いずみ
巣立ったら槐の枝へ行くつもり 皆川 燈
巣立つ直前の雛になりきった句。
きかん気の少女のような口吻がストレートに胸に届く。
どうしても槐の枝に行きたいのだ。
巣立ったなら。大人になったら。
すぐそこに見えている槐の枝。
でもまだ今は行けない。飛べない。
もうすぐ。うん、もうすぐ。
少し悔しさのにじむ、こんな強い願望を、最近、私は持っていないな、と思う。
そう思いあたったとき、この句がぐっと切実に迫ってきた。
奥の間に低く飛びゆき春の蠅 岩田由美
積み上げし本のあたりを春の蠅
兄弟の間を通る春の蠅
手の甲に止まりし春の蠅を見す
春の蠅四句。
蠅自体は夏の季語だが、夏の蠅は大きくてぎらぎらしている。
春の蠅となると、まだ生まれたての小さなもので、少し頼りない感じがする。
あまり例句を見ないので新鮮だった。
四句、それぞれに良く、この作者の平均打率の高さが思われる。
一句のインパクトという点では四句目、二句目・三句目の臨場感もいい。
好みだろうが、私は一句目の何でもなさに惹かれる。
「低く」飛ぶことが「春の蠅」の風情である。
「奥の間に」という上五、さりげなく詠まれているようで、なかなかには言えない。
苦労の跡を消して、何でもないような顔をしている。
上質の炊きたての白いご飯のような句だ。
第302号 2013年2月3日
■竹岡一郎 神人合一論 10句 ≫読む
■宮本佳世乃 咲きながら 10句 ≫読む
第303号 2013年2月10日
■照屋眞理子 雪の弾 10句 ≫読む
第304号 2013年2月17日
■皆川 燈 千年のち 10句 ≫読む
第305号 2013年2月24日
■中原道夫 西下 12句 ≫読む
■岩田由美 中ジョッキ 10句 ≫読む
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