2013-11-03

2013落選展テキスト 13置炬燵 前北かおる

13 置炬燵 前北かおる

冬至柚子もらふ到着ロビーかな
凩や塀また塀の城下町
御廟所へ石畳踏む冬至かな
切長の松陰像や冬座敷
ふぐ宿の傘差しくるる仲居かな
ふぐちりのふぐのラップを外しゆく
露天湯へ霜夜の扉押しひらく
灯の果てに寒椿かな露天風呂
明りては細る寒夜の灯台よ
磯辺より椿林へ分け入りぬ
時雨つつ椿林の花辿る
灯台を見て引き返す朝時雨
蜑小屋の自販機灯る時雨かな
常磐木に埋もるる火口山眠る
冬の雨選挙の済みしポスターに
城下より城下へ時雨たる旅を
時雨たる町のプラネタリウムかな
駅頭に蒸気機関車山眠る
ちくわぶの残骸浮いておでん鍋
ストーブや板廊下なる洗面所
塞ぎたる北窓に風しがみつく
草枕電気毛布にくるまりて
もみぢ葉の積もる千本鳥居かな
冬帝を讃へ発電風車群
冬濤の磯に砕けて我が生地
置炬燵四世の孫に対面す
子ら巣立ち孫どち巣立ち冬籠
歳晩の母系の墓所に参じけり
照り翳り照り翳りして冬の浪
水仙や海風に耳ふさがるる
山茶花の雪に塗れてゆけるかな
ぼた雪をはたき落として風神は
前髪を雪の簾にしてゐたる
大雪のマンホールより水の音
吹抜に吊すあれこれクリスマス
襟巻にノートを当てて諳んずる
雪晴の朝一番の登城かな
楠の垂らす雫や雪晴るる
橇に乗せ二人がかりで引きまはす
北風に出づれば天守屹立す
スリッパを履いて登城や底冷ゆる
橋の雪掻いては堀へ投げ棄つる
風花やブルドーザーが土均す
足跡の凍つてゐたる日陰かな
かいつぶり水輪消ゆれば泳ぎ出す
手袋をはづして涙拭ひやる
荒波や小さくなりし鴨の陣
冬菊の日を失へる黄色かな
枯れ尽くす芒の糸に残る棘
旅戻りサンタクロース来る家に


1 comments:

上田信治 さんのコメント...

13 置炬燵 前北かおる

凩や塀また塀の城下町
ふぐちりのふぐのラップを外しゆく

今を生きている自分をすでにある俳句の規矩のうちにおさめて語る、という課題を、きっとこの人は自分に課している。それは誠実な態度だと思う。

橋の雪掻いては堀へ投げ棄つる