18 積木の家 滝川直広
花馬酔木ほそき煙となる手紙
消しゴムの角の倦怠卒業期
白木蓮落花の凸の地に触れず
菜の花や氏名手書きのバス定期
靴ずれの踵の火照り春の星
花吹雪先頭は流線形である
水底の常世を隠す花筏
福耳の夕日に濡るる三鬼の忌
ドーナツの輪を抜けてくる春の雷
鷹鳩と化して万年筆涸るる
永き日の行きどころなきチェスの駒
亀鳴くや冷めてちひさき卵焼
春眠に体ひたしてをりにけり
箱庭に箱庭の空なかりけり
眼帯に葉桜の影染みてきし
紅さうび縁より黒におかさるる
アルビノの鳩のまじれる夏落葉
はんめうの脚かちやかちやと音のなく
葉ずれなく揺るる楓や梅雨曇
濃あぢさゐ店番をらぬ電器店
梅雨明けやサラダに跳ねる塩の音
昼寝覚アロエ絡まりゐたりけり
瞑想の耳滝音を寄せつけず
青田波ヘッドライトに切り取らる
やにの歯の唇をはみ出る秋旱
手びさしの顔のうしろの秋簾
虫の音の間(あい)虫の音の埋めにけり
失業者と思はれてゐる鰯雲
積木の家月の畳にのこりをり
口ゆるく開きし土嚢秋桜
煙茸ふみたき子らに数足らず
けふよりは桜紅葉の仮住まひ
いま降りしバスに辞儀の子秋夕焼
テーラーの生地をあふるる冬灯
冬うらら日のなめしたる黒瓦
出会(くわ)せし御火焚の火に魅入らるる
ほぞ抜けてゐるほぞ穴を雪螢
まなぶたを開くに倦みて蕪村の忌
初雪や目を立てなほすをろし金
マネキンの肌に艶来る雪催
刃のやせし鎌の置かるる大根畑
マスクして命令形を教へたり
一辺はテレビに空けてある炬燵
樹皮残る桜の撞木山眠る
初暦病臥の人の目の高さ
読初や波音寄する倭人伝
流木に値のついてゐる初天神
マフラーの結び目猪首より提がる
凍雲のどこよりゆるみはじめるか
冬深し灯明皿の縁の煤
2014-11-02
落選展2014_18 積木の家 滝川直広 _テキスト
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1 comments:
水底の常世を隠す花筏
花筏は古来、骨壺を運んでいたものだとか。壺が外れ常世に沈みゆく死者を、花筏が隠しているのだ。
濃あぢさゐ店番をらぬ電器店
この電器店は大型店舗ではなくいわゆる地域密着型の小さなお店だろう。修理にでも出向いているのか、店番も見当たらない。路傍のあじさいが鮮やかな日常。
凍雲のどこよりゆるみはじめるか
重く黒く天を覆う凍雲、ゆるみ始めたところから白雪が舞い来たる。
明快な風景をわかりやすく詠む。誰にでも広く理解されるバランスのとれた句作である。
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